この言葉には、ユイ姫さんも目を丸くする。
驚いたかと思えばすぐに怒りの感情が湧き上がったらしく、恐ろしい顔でトキを睨む。
「…その女、寄ってたかって何が良いの?」
「あんたと違って可愛いからね。リンには手出ししない方が良いよ。」
「トキも、その女が欲しいの?」
「うーん。欲しいと思うのも怖いから俺はいいかな。」
ユイ姫さんはトキの表情を見て、それがますますお気に召さない様子。
私がこの場にいたならば、全力でトキの意地悪を阻止するのに。
「でもどうせ、その女に未来はないわよ。次の魔女狩りで間違いなく捕まってしまうもの。この国の捕虜にするんですって。」
「リンはそんな簡単に捕まらないって。」
「今回は特別なのよ。この国の威信を掛けるようなものだもの。」
「…威信?」
ここでようやくトキがまともな反応を示す。
それは焦りなのか、未知なるものへの恐怖なのかは分からないが。確かにトキは揺らいだ。
「箝口令に、国の威信って…。」
「ふふ。魔女如きが抗えるものじゃないわ。」
トキはある程度予想をしていた。
今回私向けて挙兵すること。シオンと連絡が取れなくなったこと。それらを踏まえて、挙兵される軍の指揮を取るのはシオンだと考えていた。
シオン以外はあり得ないと思っていた。他にその軍を率いて戦果を上げられる将はいないと思っていた。
その予想が、覆される予感。
「総司令が討って出るそうよ。」
トキはすぐに周囲に人気がないかを確認。
箝口令を敷いてまで隠したかったこの事実を、不本意にも知ってしまった今。これがバレればアキトのところへ戻れなくなる。

