(二)この世界ごと愛したい




この言葉には、ユイ姫さんも目を丸くする。


驚いたかと思えばすぐに怒りの感情が湧き上がったらしく、恐ろしい顔でトキを睨む。




「…その女、寄ってたかって何が良いの?」


「あんたと違って可愛いからね。リンには手出ししない方が良いよ。」


「トキも、その女が欲しいの?」


「うーん。欲しいと思うのも怖いから俺はいいかな。」



ユイ姫さんはトキの表情を見て、それがますますお気に召さない様子。


私がこの場にいたならば、全力でトキの意地悪を阻止するのに。




「でもどうせ、その女に未来はないわよ。次の魔女狩りで間違いなく捕まってしまうもの。この国の捕虜にするんですって。」


「リンはそんな簡単に捕まらないって。」


「今回は特別なのよ。この国の威信を掛けるようなものだもの。」


「…威信?」



ここでようやくトキがまともな反応を示す。


それは焦りなのか、未知なるものへの恐怖なのかは分からないが。確かにトキは揺らいだ。




「箝口令に、国の威信って…。」


「ふふ。魔女如きが抗えるものじゃないわ。」



トキはある程度予想をしていた。


今回私向けて挙兵すること。シオンと連絡が取れなくなったこと。それらを踏まえて、挙兵される軍の指揮を取るのはシオンだと考えていた。


シオン以外はあり得ないと思っていた。他にその軍を率いて戦果を上げられる将はいないと思っていた。



その予想が、覆される予感。





「総司令が討って出るそうよ。」




トキはすぐに周囲に人気がないかを確認。


箝口令を敷いてまで隠したかったこの事実を、不本意にも知ってしまった今。これがバレればアキトのところへ戻れなくなる。