私に嫌われることを何より恐れるハルは、至って真剣におーちゃんに怒る。




「…アホくさ。」


「この世はアホと言う奴がアホだと相場は決まってる。リンの言葉だ。胸に刻め。」


「お前鬼人やろ!?戦好きのイカれた男やろ!?」


「戦はまあ…嫌いではねえけど。強い奴と戦うのは面白え。」


「ほなさっさと表出んかい。」


「だが、俺はリンより好きなものはねえ。戦で唯一嫌なのはリンと離れることだ。」



あまりの溺愛っぷりにもう呆れるしかない。


それはおーちゃんとカイ、そしてトキ。



慣れに慣れたるうは最早何も感じず、アキトは周囲とは別の感情を抱いていた。





「ハル、馬車回してるけど。そこまでリン抱えて行けるか。」


「誰に聞いてんだお前。」


「もう目も当てられねえくらい怪我してんだろ。リンに言わなかっただけ有り難く思って二人で乗ってろ。」


「…あーうるせ。」



私を抱えて立ち上がるハルの脇腹からは、既に血が滲み出て。


その血で私が汚れないように、外套で包み直す。




「おい。」


「…俺っ!?」



ハルは不意にアキトに声を掛ける。





「この俺と、口が聞ける場はそうはねえ。」


「……。」


「言いてえことがあるなら今だけ聞いてやる。」




通じるものがあるこの二人。


私はハルとアキトは本当に良く似ていると思うんだ。






「じゃあ。」



ハルにこれ程間近で会えた感動。


ハルと私の関係性を見て、アキトが感じたことは何なのか。






「勝った奴が正義なら、俺は超えたい。」



このアキトの言葉の意味を、ただ一人。


理解出来るのはハルだけ。






「俺を超えてえなら、もう百戦は勝って来い。百一戦目に相手になってやるよ。」


「うわ…聞いたかトキ!?」


「聞いたよ。どうすんの。俺この人と戦うの疲れそうで嫌だよ。」


「シオン弟、安心しろ。その時俺は逃げも隠れもしねえ。真正面、その最前線で待ってる。」




つまり。


アキトと戦う時は、真っ向勝負。戦略も作戦もなしに、ただそこで待つと明言したハル。





「リンはお前に懐いたろ。」


「懐くと言うか…。」


「理由が分かるか。」


「分かるような、分かりたくないような…。」



私がアキトに安心感を覚えたのは、その温もりがハルに似ているからだと。


アキトも、私もそう思っていた。






「リンはお前に、未来を見たんだ。」




「え、結婚?」


「張り倒すぞ!?」