「大体何故このような下賤な場所におられるのですか。ハル様とルイ様が日々どれ程姫様を心配していらっしゃるかお考えですか。」
下賤は失礼だろ。
「姫様の御身に何かあれば亡き陛下にも王妃様にも会わせる顔がございません。もう大人しく出来ないのであれば今すぐアレンデール城へお戻りください。」
あー相変わらず話長い。
眠くなってきた。
「聞いてるんですか。姫様の奔放がすぎるあまり先日ヤハネのイヴ将軍も身を案じて城へお越しになっておりました。どれ程周りが心配しているかきちんとご理解ください。」
カイのコーヒー飲みたいなー。
「姫様っ!!!」
「聞いてる聞いてる。カイ、コーヒーちょうだい。」
「…ハル様が出陣前に姫様の部屋で佇む姿を、私は見ていられませんでした。」
私の耳を傾けるためにハルの名前を使うとは、強行手段を取ったな。
「…それで?ハルが可哀想だから私に戻れって?」
「姫様の行動についてはハル様から伺いました。その正しき考えを差し引いても、納得は出来ませんでしたので。今申し上げます。アレンデールの威信をかけてお守りいたします。ですから…。」
あーあ。
このお説教も今は懐かしいなー。
「疲れた。」
「姫様、我が儘を言える立場でないことはお分かりでしょう。」
「……。」
分かってるよ。
知ってるよ。
そうやって今まで生きてきたんだから。
「おいコラ、おっさん何やねん。」
「馬鹿!オウスケっ…!」
「お嬢のやりたいようにやらしたれよ。今まで散々頼って来たんやろ。ええ加減自由にしたれ。」
「オウスケ!!」
おーちゃんは我慢ならず、敵国の重役相手にも関わらず私を庇ってくれる。
それをきちんと立場を弁えているカイが制止するが、おーちゃんは止まりそうにない…な。
「何だ貴様。これは我が国の問題、口を挟むな。アレンデールを相手に戦をする勇気もなかろう。」
「このおっさん腹立つわ。あんた昔からお嬢を見てたんやったらちゃんと考えたれよ。」
「考えた上で言っている。我が国の姫を掠め取ろうなど身の程知らずも甚だしい。」
別に誰も掠め取ろうなんて思ってないのに。
「身の程を知るのはどっちなの。」
ここは私が制止した方が早そうだ。
「っ…。」
「他国で戦争を仄めかすのは大悪無道。仮にこの国と戦が起これば、そんな馬鹿げた進軍をした兵は私が全員討ち倒す。」
「私は…。」
肩を落とすこの人は、本来本当に国思いでパパもハルも信頼している凄い人だ。
パパの側近であると同時にハルの教育係でもあった。
「…出陣前でなくても…ハル様は時間が出来る度、姫様のお部屋にいらっしゃいます。ハル様の気持ちを考えると、見て見ぬふりなど私には出来ません。」
「分かってるよ。」
「分かっているのでしたら…っ!」
「分かってるから、今はまだ帰らない。」
私のせいで、もうハルを傷付けることはしたくない。
互いにこうして、身を割かれる程に会いたいと願っていても。
二度と失いたくない存在だから。
「…ハルの戦が終わる頃に一度帰国する約束したの。だから、お説教の続きは城で聞くね。」
「やはり、ご理解いただけませんか。」
…気付いてるかな。
ハルの気持ちを一番に考えてくれて私は嬉しい。そんな人がハルの近くにいることが本当に頼もしい。
私のことも、昔から大事にしてくれていた人。
だけど、そこに。
私の気持ちを考える思慮はない。

