(二)この世界ごと愛したい




どうせ答えは分かっている。


この甘く美味しい機会を、棒に振る馬鹿な国はないだろう。




「帰ります。送っていただけませんか。」


「お、俺っ!?」



帰りは送ってくれと伝えただけなのに、おーちゃんがビックリする程狼狽える。




「…では結構です。」


「あー送る送る!!!」


「はい。」


「はい?」



手を差し出すと首を傾げられる。


エスコートをする概念の持ち合わせはないらしい。




「…いや、大丈夫です。」


「何やねん!?」



もうめんどくさい。


私は礼は通したので、とりあえずおーちゃんと応接室を出てお城の外を目指す。



が、おーちゃんはずっと落ち着きがない。




「…お嬢って。」


「はい?」


「…やっぱ姫やねんな。」



何を今更。


何だと思ってたんだ今まで。




「帰るならどうかお早くご案内いただけません?将軍様?」


「しょっ…気味の悪い呼び方すな!?」


「…オウスケ様?」


「その格好や!その格好があかんねん!早よ帰って脱げっ!!!」



大声で。


城のど真ん中で。


そんなことを叫ぶおーちゃんに、かなり冷ややかな視線が送られる。




「ち、ちゃう!別に邪念とちゃうぞ!?何やねんお前等!?」



…もう勝手に帰っていいだろうか。




「お、オウスケ様っ!麗しい女性に何たる凌辱をっ…!」


「オウスケ様がご乱心だ!」


「もしやそう言った間柄かっ!?」



おいおいおい。


こっちまで被害が出てきてるぞ。




「…俺のイメージ最悪やん。早よ帰ろ。」


「最初からそうしてよ。」


「何か言うたか!?」



誰にも聞こえない程の声で呟いたのに、聞こえてしまったようでおーちゃんが怒る。




「良い加減、気を鎮めてくださいませ。オウスケ様。」


「おっ、ま…〜っ!!」



周りの方への当てつけも兼ねてニッコリと笑顔を撒き散らすと、辺り一帯の顔が赤く染まるので。


より心が疲れる私はもうさっさと歩き出し、待たせてある馬車に乗り込む。





「おーちゃん疲れた。」


「…城から出れば戻るんか。」


「えーだってー。他国のお城なんて緊張するじゃんー。」



同じくおーちゃんが乗り込むとすぐに発進する馬車で、目と鼻の先のカイの酒場へ戻る。


本当に気疲れしたー。




「いつ帰って来てたん?」


「お城に着くちょっと前に。そのまま支度してすぐ来たから、カイのコーヒーまだ飲めてないのー。」


「…寒ないか?」


「冬だから寒いに決まってるけど、寒いって言ってどうなるのー。」