おーちゃんは既にお城で待機しているらしく、ここにはいないが後で会うことになるだろう。
「ワカさんお待たせしましたー。」
「はーい。」
シャワーを終えて、今日はいつもと打って変わりほぼ正装に近いので。久々の煌びやかな装いに少し笑えてしまう。
「リンちゃん今日も素敵よ。」
「ワカさんの腕がいいからね。いつもありがとう。」
「けど、これオウスケは勿論のこと。カイもある意味目を奪われそうね。」
「えー大袈裟。」
漆黒のドレス。割と控えめなものにしてもらった…つもりだ。
あまり公でいられない立場なもので。
「カイ、支度終わったわよ。」
「……。」
パリンッ…と。
私を視界に入れたカイの手から、コーヒーカップが落ちて割れてしまう。
「らっ…!」
「ら?」
「…焦った。マジで怖い。女って怖い。」
「え?私何かした?コーヒー大丈夫?火傷してない?」
正気に戻ったカイに怖いと言われた。
「あ、ああ。大丈夫やで。コーヒーすぐ作り直すな。」
「ううん、戻った後の楽しみにしとくね。」
「…さよか。ほな気付けてな。外にエスコート兼案内役置いてるから連れて行き。」
「ありがとうー。行ってきまーす。」
案内役の方が傘をさして待っていてくれたので、お礼を伝えて馬車に乗り込む。
近いんだけど、一応雨なので。あとあまり見られるのも良くないのでカイが手配したんだろうな。
「カイ大丈夫?」
「あー無理。マジで焦った。」
「…ちゃんと着飾れば、やっぱり親子ね。纏う空気が似てるもの。」
私の出発後、カイとワカさんが二人で私の面影に浸る。
「父親似やと思ててんけどな。」
「性格は確かにね。けどあの美貌と雰囲気は母親…ランにそっくり。」
「…さっさと片してお嬢にアップルパイ焼かな。」
「アップルパイ?」
「お嬢が好きなんや。懐かしいから俺も作るん楽しいし。」
「そんなとこまで似るのね。」
遠い記憶の中で、私の母を思い浮かべる二人。
懐かしいと笑い合い、カイはお料理に励み、ワカさんはまた新たな仕事へ出て行くのだった。

