(二)この世界ごと愛したい




おーちゃんは既にお城で待機しているらしく、ここにはいないが後で会うことになるだろう。




「ワカさんお待たせしましたー。」


「はーい。」



シャワーを終えて、今日はいつもと打って変わりほぼ正装に近いので。久々の煌びやかな装いに少し笑えてしまう。




「リンちゃん今日も素敵よ。」


「ワカさんの腕がいいからね。いつもありがとう。」


「けど、これオウスケは勿論のこと。カイもある意味目を奪われそうね。」


「えー大袈裟。」



漆黒のドレス。割と控えめなものにしてもらった…つもりだ。


あまり公でいられない立場なもので。




「カイ、支度終わったわよ。」


「……。」



パリンッ…と。


私を視界に入れたカイの手から、コーヒーカップが落ちて割れてしまう。




「らっ…!」


「ら?」


「…焦った。マジで怖い。女って怖い。」


「え?私何かした?コーヒー大丈夫?火傷してない?」



正気に戻ったカイに怖いと言われた。




「あ、ああ。大丈夫やで。コーヒーすぐ作り直すな。」


「ううん、戻った後の楽しみにしとくね。」


「…さよか。ほな気付けてな。外にエスコート兼案内役置いてるから連れて行き。」


「ありがとうー。行ってきまーす。」



案内役の方が傘をさして待っていてくれたので、お礼を伝えて馬車に乗り込む。


近いんだけど、一応雨なので。あとあまり見られるのも良くないのでカイが手配したんだろうな。







「カイ大丈夫?」


「あー無理。マジで焦った。」


「…ちゃんと着飾れば、やっぱり親子ね。纏う空気が似てるもの。」



私の出発後、カイとワカさんが二人で私の面影に浸る。




「父親似やと思ててんけどな。」


「性格は確かにね。けどあの美貌と雰囲気は母親…ランにそっくり。」


「…さっさと片してお嬢にアップルパイ焼かな。」


「アップルパイ?」


「お嬢が好きなんや。懐かしいから俺も作るん楽しいし。」


「そんなとこまで似るのね。」



遠い記憶の中で、私の母を思い浮かべる二人。


懐かしいと笑い合い、カイはお料理に励み、ワカさんはまた新たな仕事へ出て行くのだった。