グイッと私を馬車の奥へ引き込んだと同時に、外へ飛び出してしまったおーちゃん。
…負けてしまった。
ここで私が出れば、無駄におーちゃんとの関係を知られてしまうだけなので大人しくそっと見学するしかなくなる。
装具なし状態のおーちゃんの動きは、本当に正しく光の速さで。初めは目で追うのも難しかったが、徐々に見えるようになって来た。
が、今も時間にして僅か数秒。
一瞬で片が付いた現場。
「ほんと可愛くない。」
馬車の中でぶすっと膨れる私を、すぐに帰って来たおーちゃんが笑う。
「顔膨れて不細工なるで。」
「元々こんな顔ですー。」
「アホ。お嬢はもっと可愛…っ。」
「…いや、無理に褒めなくていいよ。おーちゃんに可愛いって言われても嫌味にしか聞こえない。」
私を可愛いと言ってくれようとして、何故か赤くなったおーちゃんに可愛くない言葉を投げる私はやはり可愛くはない。
本気で性別変わってほしい。
「このお嬢ほんま腹立つ。」
「別にいいですー。」
「何の逆ギレやねん!?俺が相手したんそんなに気に食わんかったんか!?」
「そうですー。」
私がやりたかったんです。
実戦でどこまでやれるか試したかったんです。
それを横取りされた私の気持ちがおーちゃんに分かるわけないか。
「…ほんまアホやな。」
「……。」
「惚れた女の後ろに隠れる男がおるわけないやろ。」
ツーンとそっぽ向いた私へ。
顔を赤くしたおーちゃんが同じく顔を背ける。
「〜っ!」
うう、やっぱり可愛い!!!
この二面性本当に厄介だ!慣れない!!!
二人で赤面する謎の状況下で、馬車は再びパルテノンへ向けて発進するのでした。

