私が広間を出た後。
アキトとトキはまだ広間に残ったまま。
「…やっぱ鬼人はすげえ人だなあ。」
「アキトの憧れの人だもんね。」
「あの兄にしてあの妹だから、恐ろしい血筋だ。」
「そんな鬼人に似てるってリンに言われたんだって?よかったじゃん?」
アキトにそんな自覚はないらしい。
「…本当に似てるってんなら、俺はお前を救えてる。」
「救うも何もこれは俺の家の問題。アキトもリンも関係ない。全部分かってた上で俺はここにいるんだし。」
「お前をここに連れて来たことに後悔はねえ。でもリンを見てると諦めるのは違えと思わされる。」
「抗うには力が足りないし。逆らうには覚悟も足りない。」
トキはそう言って儚く笑う。
アキトはそれをただ、悲しそうに見るだけ。
「だから、明日からの稽古アキトも気合い入れてね。」
「俺の才能をまだここから開花させるつもりらしいなあ。」
「…俺はリンが怖いよ。本当に俺の思考、全部読み取られてるじゃん。」
「俺にはさっぱり分からん。だけど鬼人の修行方法を伝授してもらえんのは有り難え。俺はまだまだ強くなれる。」
アキトの最大の長所は、この愚直なまでの前向きさ。素直に力に手を伸ばせる直向きさ。
そして、他人の気持ちを理解出来る読心力と。それを受け止め切る寛容さ。
正真正銘、大将軍の器だ。
だけどその器に、まだ燻ったままの力がある。
それを惜しみなく引き出すのが今回私がトキから頼まれたことだと汲み取った。
私にはそれが出来ると、トキは思ってる。
「…俺はまだここからだ。」
「そうだよ。アキトはこの国を背負う将軍になるって、俺は出会った時から気付いてた。」
「じゃあしっかり見届けるまで、まだ行くなよ。」
それは、きっと。
二人だけの絆の物語。

