「えーシオンもう行っちゃうの?」
「…黙れ。」
「また冷たくなったー。」
振り返ることもせず。
話が済んだシオンが部屋を出ると…そこに待ち構えるように立っている人物がいた。
「…糞親父。」
食えない男だとシオンはつくづく感じた。
「どこに行っていたの、シオン?」
怒りを含んだユイ姫の声。
ここへは勿論、私の話をするために呼ばれたんだろうが。時を同じくしてユイ姫がここへ来るわけがないことを知っている。
総司令はそこまで読んだ上で、ユイ姫をここへ呼んだのだと悟る。
「…別に。」
「私の危機に駆け付けないなんて、そんな馬鹿げた話がある?」
「危機?」
「例の姫が城へ誤って攻撃したのよ。被害は無いにしても、シオンが私を守らなくてどうするのよ。」
相変わらず傲慢な物言いに嫌気がさす。
シオンはさっさと終わらせたい一心でユイ姫をその場で抱える。
「…抱けば文句ない?」
「そうね。だけどそれで絆されると思わないで。」
「誰が誰を絆すわけ。胸糞悪い冗談止めろ。」
「相変わらず生意気ね。」
ユイ姫の部屋のベッドに、また姫を放り投げ。
さっさとその上に乗るシオン。
目の前にいるのは、顔を近付けるだけで頬を染める人ではない。楽しそうに笑って盲囲碁を打つ人じゃない。キスを強請ると羞恥に悶える人じゃない。
人工的な香水の香りが鼻を突いて、より虚しさを感じる。
「…はー…。しつこい病原菌だ。」
この想いは、ハルからの伝染病が未だ身体を蝕んでいるのだと感じたシオン。
「…シオン?」
「呼ぶな。」
「は?」
「…今は……まだ。」
耳に残る、たった一人のその声を。
掻き消さないで欲しいと、柄にもなくそんな弱気な事を考えて。
『…またね、シオン。』
捕まえても捕まえても、するりと手から擦り抜けて行く私をまた想い焦がれ。
会える日をただ待つしかない。

