(二)この世界ごと愛したい




「えーシオンもう行っちゃうの?」


「…黙れ。」


「また冷たくなったー。」



振り返ることもせず。


話が済んだシオンが部屋を出ると…そこに待ち構えるように立っている人物がいた。





「…糞親父。」



食えない男だとシオンはつくづく感じた。





「どこに行っていたの、シオン?」



怒りを含んだユイ姫の声。


ここへは勿論、私の話をするために呼ばれたんだろうが。時を同じくしてユイ姫がここへ来るわけがないことを知っている。



総司令はそこまで読んだ上で、ユイ姫をここへ呼んだのだと悟る。




「…別に。」


「私の危機に駆け付けないなんて、そんな馬鹿げた話がある?」


「危機?」


「例の姫が城へ誤って攻撃したのよ。被害は無いにしても、シオンが私を守らなくてどうするのよ。」



相変わらず傲慢な物言いに嫌気がさす。


シオンはさっさと終わらせたい一心でユイ姫をその場で抱える。




「…抱けば文句ない?」


「そうね。だけどそれで絆されると思わないで。」


「誰が誰を絆すわけ。胸糞悪い冗談止めろ。」


「相変わらず生意気ね。」



ユイ姫の部屋のベッドに、また姫を放り投げ。


さっさとその上に乗るシオン。




目の前にいるのは、顔を近付けるだけで頬を染める人ではない。楽しそうに笑って盲囲碁を打つ人じゃない。キスを強請ると羞恥に悶える人じゃない。


人工的な香水の香りが鼻を突いて、より虚しさを感じる。





「…はー…。しつこい病原菌だ。」



この想いは、ハルからの伝染病が未だ身体を蝕んでいるのだと感じたシオン。




「…シオン?」


「呼ぶな。」


「は?」


「…今は……まだ。」



耳に残る、たった一人のその声を。


掻き消さないで欲しいと、柄にもなくそんな弱気な事を考えて。




『…またね、シオン。』



捕まえても捕まえても、するりと手から擦り抜けて行く私をまた想い焦がれ。


会える日をただ待つしかない。