(二)この世界ごと愛したい




シオンがやれやれと頭を掻いて。




「…右から。三歩兵、五歩。」



暗号のようなシオンの言葉。


瞬時に私の脳裏に以前やった軍略囲碁の盤が浮かび上がる。




「…一騎馬、六歩。」


「へえ、流石ですね。たった一回の経験で盲で打てるんですか。」


「頑張りますっ!」



褒められたことが嬉しくて、私はまた笑顔で応えたいと伝えた。




「七騎馬五歩。」


「三盾兵二歩。」



こうして始まった脳内軍略囲碁。



こんなことがレンにバレれば、きっと私を早く休ませろとシオンは怒られてしまうかもしれない。私も早く寝ろとネチネチ言われるのかもしれない。



だけど、今日が終わって明日になれば。


またしばらく会えない日々が続くのだとお互い知っている。




シオンが抱えている私への想いは、恋慕と呼ばれるものなのかもしれない。


その気持ちに私が気付いていることも、きっとシオンは分かってる。分かった上で、何も言わないのは決して弱さではなく。


今のこの関係性に不満がないんだと思う。




私は決して誰のものにもならないことを、シオンはきっと知っている。




…ハルが私を捕らえて離さないことを、知っている。





「んー!負けたっ!」


「惜しかったですね。」


「もっかい!」


「…回数制限設けるの忘れた。」



私の闘志に火が付き、結局もう一戦、もう一線と繰り返し勝負を繰り広げ。


お互いの脳がクタクタになってくる。




「…六…将、三歩。」


「九騎馬四歩。王手です。」


「うー…。もっかい。」


「…寒くないですか?」


「んー…。」



またグイッと一層抱き寄せて。


シオンはずっと熱がある私を温めてくれている。




「しお…、もっ…かい。」


「もう無理でしょ。」


「…まだ、やる。」



睡魔に抗い続ける私の瞼に、シオンがそっとキスをする。


強制的に目を瞑ってしまった私の瞼は一層重くなる。





「…おやすみ。」


「っ……。」



深く深い眠りへ誘われる。





「…この姫には勝てる気がしない。」



らしくもないそんな苦言が漏れ出る程、内に立ち込める愛おしさは私には届かず。



シオンも相当眠いだろうが、お互いの目が覚めるまで私を離すことなく抱き締め続けた。