シオンがやれやれと頭を掻いて。
「…右から。三歩兵、五歩。」
暗号のようなシオンの言葉。
瞬時に私の脳裏に以前やった軍略囲碁の盤が浮かび上がる。
「…一騎馬、六歩。」
「へえ、流石ですね。たった一回の経験で盲で打てるんですか。」
「頑張りますっ!」
褒められたことが嬉しくて、私はまた笑顔で応えたいと伝えた。
「七騎馬五歩。」
「三盾兵二歩。」
こうして始まった脳内軍略囲碁。
こんなことがレンにバレれば、きっと私を早く休ませろとシオンは怒られてしまうかもしれない。私も早く寝ろとネチネチ言われるのかもしれない。
だけど、今日が終わって明日になれば。
またしばらく会えない日々が続くのだとお互い知っている。
シオンが抱えている私への想いは、恋慕と呼ばれるものなのかもしれない。
その気持ちに私が気付いていることも、きっとシオンは分かってる。分かった上で、何も言わないのは決して弱さではなく。
今のこの関係性に不満がないんだと思う。
私は決して誰のものにもならないことを、シオンはきっと知っている。
…ハルが私を捕らえて離さないことを、知っている。
「んー!負けたっ!」
「惜しかったですね。」
「もっかい!」
「…回数制限設けるの忘れた。」
私の闘志に火が付き、結局もう一戦、もう一線と繰り返し勝負を繰り広げ。
お互いの脳がクタクタになってくる。
「…六…将、三歩。」
「九騎馬四歩。王手です。」
「うー…。もっかい。」
「…寒くないですか?」
「んー…。」
またグイッと一層抱き寄せて。
シオンはずっと熱がある私を温めてくれている。
「しお…、もっ…かい。」
「もう無理でしょ。」
「…まだ、やる。」
睡魔に抗い続ける私の瞼に、シオンがそっとキスをする。
強制的に目を瞑ってしまった私の瞼は一層重くなる。
「…おやすみ。」
「っ……。」
深く深い眠りへ誘われる。
「…この姫には勝てる気がしない。」
らしくもないそんな苦言が漏れ出る程、内に立ち込める愛おしさは私には届かず。
シオンも相当眠いだろうが、お互いの目が覚めるまで私を離すことなく抱き締め続けた。

