(二)この世界ごと愛したい




「し、シオン…離れよ。」


「何で俺が。」


「私は真っ二つにはなれないから!」



グイッとシオンを押し退け。


レンが運んでくれた食事に手を伸ばす。言っておくが食欲はない。ないけどこれ以上レンにチクチク言われるのは嫌だ。




「熱があると食べないリンがちゃんと食べてる。成長したね。」


「私子供じゃないよー。」



とは言いつつ。


こんな状況じゃなきゃ確かに食べてはいないだろうなと、思うのも事実。





「あ、レン。エゼルタ王の様子どうだった?」



突拍子もなく聞いた私に、レンは勿論。シオンも驚きを隠せない。




「あの馬車城の方から来たし。レンがわざわざ他国に出向くってことはそうなのかなって。違った?」


「…違わないけど。」


「治りそう?」


「…うーん。スーザンに極秘にって頼まれたんだけど。」



国同士。王同士の案件。


名目は王と王子の会合にでもしたんだろうか。実際は病気の診察だと考察した。




「じゃあ意識がちゃんとあるかだけ教えてっ!」


「…ある。ただこれ将軍の前でリンに話して俺大丈夫なのかな。」


「大丈夫!シオンこう見えても本当は優しいから!」


「うん、それは何となく分かるよ。(優しくするのはリン限定に見えるけど。)」




エゼルタ王の意識は…ある。


レンの様子からしてそんなに重篤とも思えない。カイから心労が大きいと聞いた。



…私の道に障害はなさそうだ。




「婚儀の時もエゼルタ王のこと気にしてたね?知り合いなの?」


「会ったことないよ。会う機会もなかったし。」


「そうなんだ。」



会ったことはないけど、お互いに存在だけは認知している。


向こうはどうだか知らないけど、私はずっと会いたいと思っていた。




「…ん?」



レンが私の左腕を取る。




「時間が経ってるから綺麗に…とまでは無理だけど。出来ることはやるね。」


「…ご丁寧にどうも?」


「主治医だからね。全然治療させてくれないけど。」


「何かすみません。」



もう謝っても謝っても許してもらえない気がするのは私だけかな。


明日が少し怖くなって来た。



腕の処置も済んだのを確認し、かなり言いにくいが私はレンに声を掛ける。




「色々ありがと。レンはお部屋別だよね。また明日会えるから今日は…うん。またね。」


「……。」



悪いと思っている。


ここまで良くしてもらって、部屋を追い出すようなこと私も胸が痛むので言いたくない。



何とも言えない顔でレンが私を見ているから、謎に罪悪感まで感じてしまう。




「…そうだね。俺はお暇するよ。」


「…うん。」


「リンの心は自由で、誰にも縛れるものじゃない。だからそんな顔しないで?」



そんなに暗い顔をしてしまっただろうか。


どこまでも人のことを考えてしまうお人好しなレンに、私は若干呆れる。





「明日もまた嫌になるくらい伝えるつもりだけど、偶然でも今日会えただけでもう充分嬉しいよ。ありがとう、リン。」


「お礼なんて言わないでよ…。」