(二)この世界ごと愛したい





「ユイ姫さんの命令だから仕方ないの?」


「……。」


「私もさ。一国の姫やってたし、何なら将軍もやってたし。どっちもの立場を経験したんだけどさ。」


「ユイ姫様の命は順守しなければならない。」



私はとりあえず、人質解放を優先する。


話の腰を折ってしまって不意を突く形になるが、無事を最優先させたい。



持てるスピード全てを駆使して、炎は使わないでおこうと思ったけど若干加速に利用して。


住人を押さえる兵を瞬時に斬り捨てる。




「大丈夫?怪我してない?」


「だ、大丈夫ですっ!」


「とにかく全力疾走頑張ってみて?」



周囲の兵もおまけで斬り捨て、逃げ道を作り住人を逃がすことには成功しました。




「この人数の兵で囲むど真ん中に、わざわざ入り込むとは余程の自信だな。それか実は低能か。」



低能は初めて言われました。


軽くショックです。



そして私を取り囲んだ兵達と、移動し再び私の前に立つ隊長さん。




「…低能とは、ご自身のことでは?」


「何だと?」



隊長さんも苛立っているのは分かる。


しかし、言わせていただこう。





「強大な力を前にして破れるのは至極当然。荘厳な権力に屈するのは不可抗力。」


「…何を言っている。」


「だけど現況は茫然自失。軍人としての誇りも捨てたのなら、潔く剣を置くことを勧めます。」



もう近くに住人はいない。


それも相まって、抑えていた殺気を溢れ返した私を前に隊長さんは思わず身構える。




「誇りを…捨てただと?」


「力に敗れ権力に敗れ、その自責と後悔で己を犠牲にすることがあっても、兵と民を犠牲にする選択をした時点で、もう剣を握る資格はないでしょう?」


「っ!」


「我が身可愛さに捨てた誇りは、軍人の恥と知れ。」



もう怒りのボルテージが上がりに上がった私。


宿の窓からシオンが見物してくれているのは知ってるので、ヤバかったらきっと止めてくれるだろうと信じます。




「命令を遂行せねば、兵の命一つ容易く奪う姫を相手に…どうせよと。」


「それは戦う意思を示した者が言う台詞ですが、一度でもその姫と戦う意思は示しました?」


「王族に剣を向けるなど国に剣を向けるも同じことだ。」


「それは確かに言えてます。ただ私なら、民に剣を向けるくらいなら王族に向けます。立場が立場なので信憑性ないかもしれませんけど。」