(二)この世界ごと愛したい




長考を終え。


私はシオンに一つ頼み事をする。




「ねえ、鷹さん呼ぶ笛貸してっ!」


「貴女いらないでしょ。」


「シオンの鷹さんを貸してほしいのー。」


「は?」



私の思考までは読み取っていないシオンは、疑うような目を向けながらも笛を貸してくれた。


それを持って私は宿から一人で出る。



私が促したこともあり街は既に閑散としている。家に籠ってる人もいるだろうが、街を離れた人も多いだろう。


それはどっちでもいいことだ。



私は負けはしないし、一人も傷付けさせはしない。





「…私は姫。今日は姫。姫姫姫。」



暗示のように自分に言い聞かせる。


そして、目前に迫った軍と向かい合う形になる。





「おかえりなさい?」


「…ユイ姫様の元へ同行願う。」



隊長さんが相変わらずぶっきらぼうに私に言い放つ。




「だから行かないってば。それより戻って来たってことは、まさか私に勝てる算段がついたの?」


「…ユイ姫様の命だ。大人しく投降しろ。」


「しつこいねー。ユイ姫さんのために、わざわざ勝ち目のないことする心境が理解出来ないし。」


「こちらも覚悟の上だ。」



勝ち目がないのは覚悟していると。


隊長さんがそう言ったことで、隊長さんを始め兵士もそれぞれ剣を抜く。弓を構える。



…まさに決死隊。




「…やっぱりこうなるよね。」



私も呼応し、剣を抜く。


可燃の炎で応戦すると街を燃やしかねないので、ここは一先ず剣を構えることにした。





「隊長さん。」


「……。」


「ここで戦闘が起こるとどうなると思う?」


「…街一つ犠牲になるのは仕方がないことだ。無論、こちらも手ぶらでここへ来てはいない。」



後ろから、兵士が出てくる。


この街から避難したんだろう住人らしき人を数人、その首に剣を添えて。




「昨日の一件で、正義感が垣間見えた。これが足枷になるかは疑問だが、こちらもなりふり構っていられない。」


「…そっか。」



私は人質となった住人へ目を向ける。


涙を流して、恐怖に震え、光を求める目。