私を部屋まで送ってくれた宿主。


部屋にはシオンがまた深く外套を被ったままで、表情は分からない。寝てるのかもしれない。




「…あなたのような方が、この国の姫であったらならと…夢のようなことを考えてしまいました。」


「それは声に出さないことを勧めます。意外と、どこで誰が聞いてるか分かりませんよ。それに何度も言ってますけど私はもう姫ではありません。」



何回伝えれば分かってくれるんだ。




「私にとっては姫様なのです。」


「…もう良いです。」


「お怒りですか!?」


「そんなことで怒りません。」



私そんなに短気に見えるかな!?


ここまで言っても、私を姫と呼ぶこの人。さぞかしこの国の姫は民を虐げていることが窺える。




「ちゃんと諦めずに健やかでいてくださいね。」


「どこまでもお優しい方だ。有り難きその言葉を信じ、生きる糧にいたします。」


「…大袈裟です。」


「いつかアレンデールにも行ってみたいものです。」



これを聞いているシオンが何を思っているか分からない。


聞いているのかも分からない。





「…夜明けは平等に必ず訪れます。その兆しを、私はいつか作ってみたいとも思ってるので。頼りないですけど、気が向いたらそれを思い出してもらえると嬉しいです。」


「ええ、必ず姫様を思い出します。今の我々にとっては、これ程とない希望でございますから。」



やっぱり大袈裟だ。


しかし、これで完全にユイ姫に牙を剥がなければならなくなった。



私を“姫”と呼ぶのなら、応えたいと思ってしまう。





「…とりあえず、やっぱりもう一部屋準備出来ません?」


「えっ?」