タイミングどうなってんの!?
どうせまた宿主さんだと思い、私はドアを開けて用件を聞く。
「あ、姫様。宜しければ浴場の準備を整えておりますのでご案内します。」
「…あー…はい。」
好意を無下に出来ない私を殴りたい。
ここは丁重に断って宿からさっさと逃げなければならなかった。
でもわざわざ準備してくれたと言うので、私は諦めて案内を受けることにして。
追加でお風呂あがりの寝衣までお借りして。
「お湯加減いかがでしたか?」
私一人を案内するために宿主さんが、部屋から浴場間を往復してくれている。
今はお風呂上がりの帰り道。
「良い湯加減でした。何から何までありがとうございます。」
「姫様はお優しいですね。」
「…そんなことないですよ。普通です。」
「この国には、優しい方などほとんどおりませんから。姫様のような方がいるアレンデールが羨ましいです。」
エゼルタは誇り高い軍事国家。
その軍の強さこそが全て。軍強化のためならば手段を選ばない。
確かにそんな印象が私にもある。
「国とは人だと、父が良く言ってました。あなた方のような民を守るために軍があり兵がいます。この国の政は私にも分かりませんが、民なくして国も王族も成り得ません。」
「…?」
「…上手く言えなくてごめんなさい。でも、どうか諦めないでください。苦しむ民の声が届かぬ程、この国の王は愚かではないと…私は信じています。」
あまり無責任なことは言いたくないが、私は“姫”と呼ばれるとどうも捨て置けない性分で。
それが自国でも他国でも、見過ごせるほど非情に育てられてはいない。

