私は食事に使用しているカラトリーをわざと床に落とす。


ごく自然に。シオンに怪しまれないように。




「あ。」


「…?」



それを拾おうと動いた私に、流石のシオンが目を光らせた。


私は拾おうとしたがバランスを崩す。フリをする。




「っ!」



反射神経の良いシオンが私を助けようと動いた瞬間、その真逆へ身体を反転し勢いのまま窓に駆け寄る。




「え、嘘!?開かない!?」


「…採光のための窓です。はめ殺しなので開きません。」



作戦は失敗した。


騙しただけになってしまったこの状況なので、どうにかまだ逃げたいと思っている。




「度胸と行動力だけは褒めます。」



もう、逆らえそうにもないほどに怒らせてしまった様子の狼さん。




「…あーあ。ドアにすれば良かった。」


「…どうぞ?」


「え?」


「もう追いません。」



ここでなんとシオンが折れた。


私の粘り勝ちとも言える。



しかし騙した結果、不成功に終わった脱出で、さらにお情けで手にした勝利。


シオンが何故かまた元気がないせいで私の中に生まれたこの罪悪感。




「…じゃあ、遠慮なく…。」



ここで優しくすればまた食われる。


私の警戒心は未だ働き続けているので、この勝利を遠慮なく受けようとドアに手を伸ばした。



そしたら逆にドアからコンコンと音が鳴った。