「……。」
「もっ…私…帰る。」
力無いなりに無理矢理シオンから離れ立ち上がった私は、退散したい気持ちが逸りこの部屋から宿から…そもそも街から離れようと決意。
こんな性悪鬼畜を相手にしてたら身がもたない。
「…ここで…ハル、か。」
呆れたように。
でも、悲しそうな切ない声が私の耳に届きはしたものの。
シオンの近くにいるのが途端に怖くなった私は一目散に逃げようと足を止めることはしない。
「…そんなにハルがいい?」
「っ!」
部屋の出入り口であるドアに手をかけた私を引き止めるため、シオンも動いた。
私のその手に自分の手を重ねたシオン。
後ろから私を抱き締めて、未だ逃がしてくれる気はないらしいと分かった。
「…あんたは本当のハルを知ってんの?」
本当のハル…?
それはどういう意味だろう。
「あの残忍さも欲深さも、尋常じゃない。」
そこまで聞くと、私にも理解が出来た。
残忍で欲深いとはつまり、私に対する接し方の話なんだろう。
「…知って、る。」
「貴女を自由にする気何て毛頭ない。一生ハルに縛られて生きて行くつもり?」
残忍じゃなくて、優しいだけ。
欲深いんじゃなくて、ただ私を誰よりも想ってくれているだけ。
「だっ…て、ハルがいないと…私は生きていけないっ…。」
それがどれだけ歪な愛でも。
私はもう、ハルがいなければ生きることさえ出来ないと言うのが正直なところだった。

