(二)この世界ごと愛したい




「総司令さんとユイ姫さんは、私を舐めてるんですかねー?」


「…充分気合いの入った数ですけど。」


「たった五千強で?私を捕まえられるって?シオンもそう思うの?」


「…俺が今本気で貴女を捕まえようと思うなら、まず軍は動かしませんね。俺一人で充分です。」


「やなこと言うなー。」



確かにシオンの気配は読みにくいから、ギリギリまで気付けない。


それにこの人のスピードと強さ。



…反撃出来ないしすぐ捕まりそう。




「それに、嫌なんですよね。」


「え?」



シオンが不意にまた、私を抱き締める。





「俺以外の誰かに、あんたが捕まるの。」


「っ〜!!」


「今夜は俺が捕まえとく。」


「はあっ!?」



こ、今夜ってなに!?


シオン家に帰らないの!?






「擦り傷一つでもしようもんなら、朝まで寝かさないから。」



…冗談じゃない。


ここは何が何でも無傷で通らねばならない道だ。




そう決心した私の耳に、街の方から悲鳴が聞こえた。


恐らく私を追う軍が到着した様子。





「絶対怪我なんかしない!」


「そうしてください。」


「じゃあ行ってくるから!シオンも見つからないようにねっ!」


「…はいはい。」



私はシオンから離れ、再び街へ向かう。



悲鳴が聞こえたのが気になったけど、ここはエゼルタ。この軍はエゼルタ軍。


自国の街に、そんな横暴なことはしないだろう。