(二)この世界ごと愛したい





「ねえねえ。」


「…はい。」


「ちょっと出掛けてもいいー?」


「…良い加減にして。」



街は落ち着いただろうかと。


様子を見に行こうと思って提案したら、何故だかまた不機嫌になったシオン。



もうやだよー。この人ずっと機嫌悪いよー。トキさん助けてくださいー。




「…っうわ!?」



心の中で嘆く私の腕を不意にグイッと引き寄せられたもので、横になっているシオンに思いっきりダイブしてしまった。




「ご、ごめっ…!」



思いっきり押し潰してしまってるので、私は慌てて飛び退こうと動いたのに。


それを止められて。



外套の隙間から、今日初めてシオンと目が合った。





「…何でさっきから離れようとしてるわけ?」


「さっきからっていつから!?とにかく今は離してよ!?」


「…あの女の匂いがするの嫌?」


「は、はあっ?」



嫌なのはあなたでしょうが!!!


私まで勝手に巻き込まないでください!!!





「…シオン。」


「ん?」


「近い。」


「…あー、なるほど。」



なるほど?とは???




「何?」


「…今目の前にいるの、あんただったね。」


「え?」



それは、今シオンの前にいるのがユイ姫ではなく私だと。


改めて認識したシオン。


男慣れしてない私が狼狽えないのは、私ではない誰かを見ている時だと思い出したから。





「全面的に俺が悪かった。」


「いっ…いや?何か空気変わったから本当に離してっ!」


「もうちょっと。」


「〜っ!」



私の身体を固定している、腰に回された腕に更に力が加わるのが分かる。


全面的に悪いと言った後から、シオンから溢れ出る雰囲気が甘い。




「ここ外なんですけど!?」


「中なら良いってこと?」


「誰かに見られたら嫌だってことですが!?」


「見られなきゃ良いってこと?」