未だ信じられないと言わんばかりの顔で、カイはアップルパイを綺麗にカットしている。
大体麗しいって何だ。純潔って何だ。
…そんなものに価値を感じない。
「カイが守らなくてもおーちゃんは何もしないよ。」
「お嬢は分かってへん。こんな可愛い顔してオウスケ意外とタチ悪いで。」
「どこがやねん!?」
昨日もおーちゃんは可愛いだけ。
それに比べて、タチが悪いのはカイの方だ。
「…カイの方がやだ。」
「俺のスマートハンサムなイメージが危うい。よし、お嬢とりあえず食べ。」
目の前に置かれたアップルパイ。
スマートハンサムとは何なのか疑問だが、私は珍しく食欲を掻き立てる物をすぐに口に運ぶ。
「…んま。」
美味しいのはもちろん。
どこか懐かしい気がする味に、私は少し驚く。
「カイ、あの…。」
「ん?」
「…ううん、何でもない。」
私がこの時感じた違和感は、とても曖昧で小さな違和感だった。
私はカイとはこの酒場で初めて出会った。
…なのに。
「美味いやろ。」
この味を、私は知ってる。
けど、私の勘違いかもしれないし。偶然なのかもしれない。
世界で一番好きな、ママの作るアップルパイと…同じ味だった。
「…あ、私そろそろディオン行くね。」
「もう?」
「ここから飛んで行くとソルの目を引いちゃうから、歩いて出来るだけ離れてから飛ぼうと思って。」
「なるほどなー。」
ささっと終わらせたら次はおーちゃんに、例の鍛冶屋さんに連れて行って貰いたいなー。
ハルの出陣に間に合えばチラッと顔は見たいけど、ただ会うと離してもらえないリスクがあるので悩むところだ。
「お嬢仕事も兼ねてくれへん?」
「え?」
「オウスケに馬で適当なとこまで送らせるから、そこから飛んで一旦エゼルタまで行ってほしいねん。」
「……ふーん。」

