(二)この世界ごと愛したい




未だ信じられないと言わんばかりの顔で、カイはアップルパイを綺麗にカットしている。


大体麗しいって何だ。純潔って何だ。



…そんなものに価値を感じない。




「カイが守らなくてもおーちゃんは何もしないよ。」


「お嬢は分かってへん。こんな可愛い顔してオウスケ意外とタチ悪いで。」


「どこがやねん!?」



昨日もおーちゃんは可愛いだけ。


それに比べて、タチが悪いのはカイの方だ。




「…カイの方がやだ。」


「俺のスマートハンサムなイメージが危うい。よし、お嬢とりあえず食べ。」



目の前に置かれたアップルパイ。


スマートハンサムとは何なのか疑問だが、私は珍しく食欲を掻き立てる物をすぐに口に運ぶ。





「…んま。」



美味しいのはもちろん。


どこか懐かしい気がする味に、私は少し驚く。




「カイ、あの…。」


「ん?」


「…ううん、何でもない。」



私がこの時感じた違和感は、とても曖昧で小さな違和感だった。


私はカイとはこの酒場で初めて出会った。



…なのに。





「美味いやろ。」




この味を、私は知ってる。


けど、私の勘違いかもしれないし。偶然なのかもしれない。




世界で一番好きな、ママの作るアップルパイと…同じ味だった。





「…あ、私そろそろディオン行くね。」


「もう?」


「ここから飛んで行くとソルの目を引いちゃうから、歩いて出来るだけ離れてから飛ぼうと思って。」


「なるほどなー。」



ささっと終わらせたら次はおーちゃんに、例の鍛冶屋さんに連れて行って貰いたいなー。


ハルの出陣に間に合えばチラッと顔は見たいけど、ただ会うと離してもらえないリスクがあるので悩むところだ。




「お嬢仕事も兼ねてくれへん?」


「え?」


「オウスケに馬で適当なとこまで送らせるから、そこから飛んで一旦エゼルタまで行ってほしいねん。」


「……ふーん。」