喜びに浸りすぎて、私はさっきまで間にいてくれたミケさんの存在を忘れていた。
もうここにはいないことに気付くのが遅れた。
「なあ。」
「んー?」
離れた私の腕をグイッと引き寄せて。
おーちゃんの顔が、徐々に近付いてくるのが分かった。
「っ!?」
やってしまったと。
さっきまでちゃんとミケさんという防衛陣を張って警戒していたのにと。
後悔して、私は反射で目をぎゅっと瞑る。
「……。」
「……。」
「……?」
大変恐れ多くも、キスされる流れかと自惚れた。
しかし何も起こらない。
ので、恐る恐る目を開けることにした。
「やから邪はどっちやって言うてん。」
「は…?」
目の前にいるおーちゃんは、本当に特に何をするわけでもなく。
腕を掴んでいるだけで何もせず私を見ているだけ。
「〜〜〜っ!!」
こうなると、単に恥をかいただけの私。
さっき絶対顔近付いてたよね!?それも勘違い!?恥ずかしすぎません!?
「何もせーへんって言うたやろ。」
「そっ…そうですね!!!」
そんなこと言って口だけの人多いんだもん!!!
「すまんな。期待させて。」
「してないっ!」
「今はこれで許してな。」
おーちゃんが小悪魔のように笑って。
掴んでいた腕を解放してくれたと思ったらすぐに、また私の手を握った。
それは単に手を繋ぐ様ではなく。まるで、指同士が絡まるように。
「なっ…〜っ。」
「…今時手繋いだだけでそんな照れてんのお嬢くらいやで。」
照れてないし!
この繋ぎ方に慣れてないだけだし!

