覚悟が足りなかったのは、私。
アキトの一件で、アキトを傷付けたくないと訴えたけど。あれはある種の自己防衛本能。
私が守っていたのは、自分自身。
時に人は、傷付く側より傷付ける側の方が辛いこともある。そんな痛みから逃げようとした。
「…逃げちゃだめ…なんだ。」
「お嬢の痛みは計り知れんけどな。それでもオウスケのこと、よろしく頼むわ。」
私は一つ息を吐いて。
忙しそうなカイに一つ、言葉を投げる。
「…三十六計逃げるに如かず。」
逃げちゃダメだと分かってはいても。
こう言った人の複雑な感情の類は、私は非常に苦手分野なので。
逃げずに向き合ってみて、部が悪い時にはもしかしたら逃げてしまうこともあるかもしれません。
「…それでも良ければ…頑張る。」
私の言葉を受け取ったカイは、ふっと小さく笑って。
おーちゃんが連れてきた護衛の人に大量の酒を渡し、配り歩くように指示を出す。
戻って来たおーちゃんは、さも当然のようにまた私の隣に座る。
「お嬢酒置いとくでー。」
「うん、ありがとー。」
カイが私にもちゃんとお酒をくれて。
私はとりあえずおーちゃんを気にせずに飲んでやることにしました。
「へえ、お嬢は酒いけるんや。」
「ここに来る前、お酒が毎晩溢れるところにお邪魔しててね。多少は大丈夫ー。」
「…それって天帝のとこ?」
「うん。」
おーちゃんも話しつつ、ちびちびとお酒を嗜む。
これがまた可愛いのなんのって。
「天帝って、女遊び凄いやん?」
「いや、私その辺あんまり知らない。興味もあんまりない。」
「自分のこと好きな男に興味もないんか。」
「…確かに邪強めだけど。アキトは…うーん。好きに遊ばせてればいいんじゃない?」
良く分からんです。
男性のそういう事情は私には難解です。興味も湧きません。
「それにどうせ、誰と遊んだって結局アキトは私を想い続けるんだよ。馬鹿だからね。」
「辛辣やな。」
「私も別にそれで構わないし困らない。」
「淡泊やし、なんかそれで天帝遊んでなかった日には可哀想やな。」
そう言われましても、確認の仕様がないし。
どっちでもいいのは事実だし。
大体、あの邪さを抑えられるとはとても思えないんですもん。

