この力を失くした私。
王族として姫としての立場も捨ててしまい、戦にも出ることがない私。
そんな私を側に置くメリット。
そんなものがあるとは思えない。
「城から出してエゼルタに置いて、それだけでいいと思ってた。」
「うん、大人しく置かれないけどね。」
「だけど今は確かに、それだけじゃ足りない気もする。」
「…もうすぐ山抜けるかなー。」
いらんことを考えさせてしまったな。
そんな未来にはどうせならない。私はシオンの側にずっと置かれるような人生は望まない。
「…もうこの辺りで大丈夫です。」
「あ、そう?」
シオンがそう言うので、私はここでようやく地上に降りることが出来ました。
…マジで疲れた。
もうこのまま寝てしまいたい衝動に駆られるが、シオンのお家をクロに覚えてもらわなきゃ。
「…何あのお屋敷。」
「自宅です。」
山へ降り立ち、シオンの後ろを追いかける様に少し木々の間を歩くと。
山の麓に立派なお屋敷がありました。
それはもう、由緒正しきって感じの荘厳なお屋敷。
「すっご。」
「…貴女城に住んでたでしょ。」
「城は城だし。こんな大きなお家見たことない。」
平屋に近いので高さこそないが、敷地の広さが異常だ。
なんだあの庭園。しかも別のお庭には訓練場とも思える広い空き地がある。
「た、楽しそうっ…!」
「嫁げば?」
私はもう聞こえないフリ。
指笛でクロを再度呼び付けて、この場所を覚えてもらおうと動く。
「クロー、今日は沢山頭使わせてごめんね。ここも覚えられる?」
「ピー。」
私の腕からシオンのお家上空へ。
軽やかに飛び立つクロを見つめて、私もこんなにスムーズに飛びたいと思った。
シオンとの空中散歩は、クロみたいに華麗なものではなく。ガタガタゆらゆらと危うい散歩だった。
「…じゃあ会議頑張ってねー。」
「…はい。」
「……。」
「…?」
この人って、本当に礼儀知らずだな。
「…無礼者。ありがとうは?」
「……。」
私がそう言うと、シオンはどうしてか珍しく笑った。
…ちゅ。
と、ここで触れるだけのキスが今度はちゃんと唇に落とされて。
「…ありがと。」
「な…っ。」
去り際に、ふわりと微笑んだその顔が。
いつも私に笑いかけてくれるトキと、どこか被るとこがあって…思わず見入った。
シオンがいなくなっても、私はしばらくそのまま動けなくて。
「…お別れの挨拶はなしか。無礼者め。」
不本意に赤く染められた顔。
こんな不満を呟くくらい、許されて然るべきだろう。

