(二)この世界ごと愛したい





「姫…。」



相変わらず怯えたままのスーザンが、まだ私を姫と呼んで声を絞り出す。




「俺は、姫の力は疑ってない…。しかし、本当にそんな理由だけで姫はこの国を助けようと言うのか?」




そんな理由だけで、助けようと思ってるよ。




「俺は…父と兄の命を失ったが、そもそもこの国が姫から奪ったものと同じだと…気付いた。正直俺はまだ憎いと思ってる。それなのに、何故…そんなことが出来るのか理解に苦しむ。」





…ふむふむ。


どうやらスーザンは少し見ない間に人の心を手に入れたようだ。




今まで前王とエリクに毒されてただけだったか。






「私はもう、この国を憎いなんて思ってないよ。スーザン様のことも勿論恨んでない。」


「っ…で、では!これからこの国を…守ってくれないか。俺の力ではまだ守りきれない。」




この言葉に。


私も驚いたが、周りの家臣達もその言葉に驚きを隠せずにいる。





…同時に少しまずいと感じた。



スーザンは火龍の力をその目で見てしまったから、恐らく強く惹かれすぎている。





そこへ軍部にいた人達がこの場に到着したことに気付いた私。


トキの姿もある。



トキとも早く話をしたいところだけど、今はこの状況を捨て置くわけにはいかない…か。







「スーザン様、少し側に行ってもいい?」


「え…?」




私は誰にも邪魔されないよう、最速でスーザンとの距離を詰める。



そしてその震える手に、自分の手を添える。




私の動きに着いてこれない衛兵達は、呆気に取られているが。今は知ったことではない。







「大丈夫。こんな力に頼らなくてもセザールは立ち直れる。この国で過ごした私が言うんだから間違いないよ。」


「ひ、姫…。」


「国を支える人の力を疑わないで。私はこれからどの国にも属さない。誰にも私を奪わせたりしないから安心して。」


「……。」





火龍の力の恐ろしいところはこれなんだ。


人の弱い心を、虜にしてしまう。




この力に縋ってしまえば、全て丸く収まると思わせてしまう。