「姫…。」
相変わらず怯えたままのスーザンが、まだ私を姫と呼んで声を絞り出す。
「俺は、姫の力は疑ってない…。しかし、本当にそんな理由だけで姫はこの国を助けようと言うのか?」
そんな理由だけで、助けようと思ってるよ。
「俺は…父と兄の命を失ったが、そもそもこの国が姫から奪ったものと同じだと…気付いた。正直俺はまだ憎いと思ってる。それなのに、何故…そんなことが出来るのか理解に苦しむ。」
…ふむふむ。
どうやらスーザンは少し見ない間に人の心を手に入れたようだ。
今まで前王とエリクに毒されてただけだったか。
「私はもう、この国を憎いなんて思ってないよ。スーザン様のことも勿論恨んでない。」
「っ…で、では!これからこの国を…守ってくれないか。俺の力ではまだ守りきれない。」
この言葉に。
私も驚いたが、周りの家臣達もその言葉に驚きを隠せずにいる。
…同時に少しまずいと感じた。
スーザンは火龍の力をその目で見てしまったから、恐らく強く惹かれすぎている。
そこへ軍部にいた人達がこの場に到着したことに気付いた私。
トキの姿もある。
トキとも早く話をしたいところだけど、今はこの状況を捨て置くわけにはいかない…か。
「スーザン様、少し側に行ってもいい?」
「え…?」
私は誰にも邪魔されないよう、最速でスーザンとの距離を詰める。
そしてその震える手に、自分の手を添える。
私の動きに着いてこれない衛兵達は、呆気に取られているが。今は知ったことではない。
「大丈夫。こんな力に頼らなくてもセザールは立ち直れる。この国で過ごした私が言うんだから間違いないよ。」
「ひ、姫…。」
「国を支える人の力を疑わないで。私はこれからどの国にも属さない。誰にも私を奪わせたりしないから安心して。」
「……。」
火龍の力の恐ろしいところはこれなんだ。
人の弱い心を、虜にしてしまう。
この力に縋ってしまえば、全て丸く収まると思わせてしまう。

