(二)この世界ごと愛したい




この人は本当に優しいのかそうじゃないの分からない人だ。




「…よし。もう少し頑張ろ。」


「え?まだやるの?」


「だって雨の日じゃないと出来ないんだもん。」


「もう暑いしずぶ濡れだしやめときなよ。そのままでいると風邪引くよ?」




暑いから濡れてても大丈夫じゃん。


全然寒くはないし、寧ろまだまだ蒸し暑い。




「あとちょっとだけ!」


「…じゃあ終わったらすぐお風呂入って温まってね。ハナに伝えてくる。」




ありがとうございます!!!



そしてもう少し稽古のオッケーが出たので、シオンの羽織りを借りたまま私は再び雨の中に立つ。


既に濡れてるので追加の雨は気にしません。






「……。」




次はちゃんと集中!!!


自分の頭上から雨を堰き止め。一気にじゃなくて徐々に範囲を広げます。



失敗から学ぶことは多いですね。




「…んー。」




半径五メートル弱。


ここが限界かもしれない。これ以上広げたらちょっとまた失敗しそう。



良い感じに集中出来ている中、まだ近くで見学しているシオンが私に声を掛ける。




「…あの。」


「何?」


「次はどの国へ行くんですか?」


「…秘密ー。」




誰にも教えませーん。


追いかけっこは嫌でーす。




「ディオン?」


「だから秘密だって。」


「ヤハネ?」


「話聞いてます?」


「パルテノン?」


「どこだろうねー。」




落とさないようにしている雨粒が、一粒この半径内に落ちるのを見逃さなかったシオン。






「パルテノンか。」


「違いますっ!」




ついムキになって集中が乱れたもので、私は再びずぶ濡れになる羽目になった。