この人は本当に優しいのかそうじゃないの分からない人だ。
「…よし。もう少し頑張ろ。」
「え?まだやるの?」
「だって雨の日じゃないと出来ないんだもん。」
「もう暑いしずぶ濡れだしやめときなよ。そのままでいると風邪引くよ?」
暑いから濡れてても大丈夫じゃん。
全然寒くはないし、寧ろまだまだ蒸し暑い。
「あとちょっとだけ!」
「…じゃあ終わったらすぐお風呂入って温まってね。ハナに伝えてくる。」
ありがとうございます!!!
そしてもう少し稽古のオッケーが出たので、シオンの羽織りを借りたまま私は再び雨の中に立つ。
既に濡れてるので追加の雨は気にしません。
「……。」
次はちゃんと集中!!!
自分の頭上から雨を堰き止め。一気にじゃなくて徐々に範囲を広げます。
失敗から学ぶことは多いですね。
「…んー。」
半径五メートル弱。
ここが限界かもしれない。これ以上広げたらちょっとまた失敗しそう。
良い感じに集中出来ている中、まだ近くで見学しているシオンが私に声を掛ける。
「…あの。」
「何?」
「次はどの国へ行くんですか?」
「…秘密ー。」
誰にも教えませーん。
追いかけっこは嫌でーす。
「ディオン?」
「だから秘密だって。」
「ヤハネ?」
「話聞いてます?」
「パルテノン?」
「どこだろうねー。」
落とさないようにしている雨粒が、一粒この半径内に落ちるのを見逃さなかったシオン。
「パルテノンか。」
「違いますっ!」
ついムキになって集中が乱れたもので、私は再びずぶ濡れになる羽目になった。

