嫌だ。
マサの目は元には戻らない。
この世界をもう両目で見ることは叶わない。
…たぶん私のせいだろう。
「……。」
私を宥めるように生暖かい風が吹く。
だけど今はそれさえも鬱陶しい。
「…殺気漏れてますよ。」
「…ごめん。」
シオン将軍に向けたわけではない。
私のこの殺気は、マサを傷付けたと言うソルの第一将に向くもの。
…さあ、どうしてくれようか。
「…眠れる虎を呼び起こそうか。」
「ハルの事ですか?」
「今私がソルに行けば飛んで火に入る夏の虫。それならいっそ、もっと怖い猛獣を送り込もう。」
元よりシオン将軍がそうする予定だったみたいだから、この人の読みは運も相まって本当に凄い。
「…やっぱり私もハルに会う。」
「……。」
「シオン将軍の策に乗せてもらうね。」
「…持ち掛けといて何ですけど、ハルとは言え無傷で済む相手じゃないかもしれません。」
それは私も同感。
マサの姿を見て良く分かった。
「私のハルは誰にも負けないんです。それに、どれだけハルが傷を負っても私は静観を貫く。」
「…貴女が静観できます?」
「檻の中で耐え抜いた過去があるんで。ある程度の我慢は出来ます。それにここで私が動くことを、たぶん敵は待ってる。私が動く方がハルは動けなくなる。」
「なるほど。」
名前も知らない人だけど、ソルの第一将。
…絶対に討ち負かす。
自分の国の将であるマサ。言わば同士であり仲間である人。そして私の友達を傷付け奪ったもの。
「…私を怒らせたら、それは虎の尾を踏むのと同じことだって教えてあげなきゃね。」
騒めく木々がその葉を揺らす。

