ああ。
己の血が沸き立つような怒りは久しぶりだ。
「…リン、怒りに駆られるな。主は甘い男ではない。」
「忍者ってすごいね?私の感情が分かるの?」
「それが忍の戦い方だ。」
「…そっか。とりあえず私は大丈夫だから、マサは早く傷治そうね。」
いくらレンの腕でもこの左目は最早手遅れ。
斬った人間も、敢えて奪って生かしたことが読み取れる。
ソルにしてもエゼルタにしても。
この世の第一将とは碌でもないのが多いらしい。
一体どうやって育ててばこうも残忍になれるのだろう。私と相性が悪いと言う話は納得だ。
「…マサ?」
マサが私に手を伸ばす。
伸びてくる手もまた血に染まっていて、その怪我の酷さが滲む。
「リン。」
「っ…。」
その手を私の唇へ添える。
「流派における誓いを立てる手法だ。」
「誓い?」
「拙者はお前に生き抜くと誓う。だから怒りは鎮めろ。」
「…絶対だよ?」
口を開けば口内に鉄の味が広がる。
だけどそんなマサの誓いのおかげで私の瞳の色は変わることなく、少し落ち着いた。
…しかし。
ここに来て厄介な狼が目を覚ました。
「貴殿は…エゼルタの将か。」
もう既に抜刀したまま屋根に上がって来てしまったシオン将軍。
起こす時あれだけ叫んでも起きなかった人なのに、将軍の血はどうしても敵将を警戒せずにはいられないらしい。
「…ソル、か。」
「厄介な男が居合わせたな。」
屋根の上にも関わらず、とんでもないスピードでマサ目掛けて攻撃を仕掛けるシオン将軍。
既にこれだけ傷を負っているマサに、受け切れるとも思えず身体が動く。
「…退いてください。」
「友達なの。」
シオン将軍の剣を受け、マサを守った私。
この人の剣は本当に速い。私の知る中では最速の速さだと思う。

