(二)この世界ごと愛したい





夜明け直前。



深い眠りの中から私は目覚める。






「…ん…?」




不穏な気配を一つ感じた。



けど、その前に自分の置かれた状況に驚く。




女性恐怖症と聞いたシオン将軍が、私を抱き締めたままアキトの部屋の寝台で眠っている。




…なんだこれ。




一瞬驚き声が出そうになったが堪え、私は素早くその腕の中からやや強引に抜け出し剣を取る。






「…一人…か。」




気配は薄い。


しかも、厄介なことに素早い。






「…まだ眠いのに。」




気配は私をまるで誘うように上に移動した。



アキトの部屋は城の最上階。つまり上には私が先日読書を楽しんでいた屋根しかない。




…完全に誘いだけど乗るしかない。



狙いがどうやら私のようなので、この城の人たちを巻き込むわけにはいかない。






窓を開けて、ふわりと舞い上がる。







「…リ、ン。」





もう姿を隠しつつある月が、僅かに照らすその人は苦しそうに私の名前を呼ぶ。





「マサ?」


「…やはり…ここ、か。」




先日会った時とはまるで違う。



身体から血が流れ続けているほど、傷を負っているマサ。





「どうしたの?」


「リン…早く逃げろ…。」


「逃げるって、そんなことよりマサ…その目っ…。」


「拙者のことは今はいい。この場所がバレるのは時間の問題。リンとにかく早くここを離れろ。」





傷だらけの身体も重症そうだけど、閉ざされた左目は恐らくもう…開いたとしても何も映すことはないだろう。





「誰に…やられたの?」


「……。」


「教えて。」


「…我が国で、最も恐ろしい男だ。」