夜明け直前。
深い眠りの中から私は目覚める。
「…ん…?」
不穏な気配を一つ感じた。
けど、その前に自分の置かれた状況に驚く。
女性恐怖症と聞いたシオン将軍が、私を抱き締めたままアキトの部屋の寝台で眠っている。
…なんだこれ。
一瞬驚き声が出そうになったが堪え、私は素早くその腕の中からやや強引に抜け出し剣を取る。
「…一人…か。」
気配は薄い。
しかも、厄介なことに素早い。
「…まだ眠いのに。」
気配は私をまるで誘うように上に移動した。
アキトの部屋は城の最上階。つまり上には私が先日読書を楽しんでいた屋根しかない。
…完全に誘いだけど乗るしかない。
狙いがどうやら私のようなので、この城の人たちを巻き込むわけにはいかない。
窓を開けて、ふわりと舞い上がる。
「…リ、ン。」
もう姿を隠しつつある月が、僅かに照らすその人は苦しそうに私の名前を呼ぶ。
「マサ?」
「…やはり…ここ、か。」
先日会った時とはまるで違う。
身体から血が流れ続けているほど、傷を負っているマサ。
「どうしたの?」
「リン…早く逃げろ…。」
「逃げるって、そんなことよりマサ…その目っ…。」
「拙者のことは今はいい。この場所がバレるのは時間の問題。リンとにかく早くここを離れろ。」
傷だらけの身体も重症そうだけど、閉ざされた左目は恐らくもう…開いたとしても何も映すことはないだろう。
「誰に…やられたの?」
「……。」
「教えて。」
「…我が国で、最も恐ろしい男だ。」

