そんな私とアキトの追いかけっこを、遠目から眺めていた兄弟。
「…あーあ。将印まで渡しちゃって。俺の忠告完全無視じゃん。」
「……。」
「でもリンもアキトも楽しそう。」
「…だな。」
トキも思わず笑みが溢れる。
「俺、将印二つも持ってる女の子なんて見たことないよ。」
「俺もない。」
「…リンだからこそ、だね。」
「…だな。」
トキはシオン将軍をチラッと見る。
特に感情を表に出すことが少ない兄の眉間に、若干皺が寄っているのに気付く。
「…シオンさ、リンにユイ姫のこと話さないの?」
「は?」
「リンはこのまま行けば本当に俺を助けちゃうよ。そうなったら、あの馬鹿女はシオンに腹いせするに決まってるじゃん。今だって…。」
「…彼女は知らなくていい。」
ユイ姫が虐めているのはトキだけではない。
それだけの地位。それだけの権力。王族である姫の立場とは、時に人一人の人生を左右する力を持つ。
「…知られたくないシオンの気持ちも分かるけど。俺達の契約に反するじゃん。俺だけ助かるなんて。」
「彼女の介入は想定外。別にいい。」
「俺が後味悪いって。リンの力を借りたら俺達二人とも助かるんじゃない?」
「…トキ。」
兄の威厳。
それを明確にするように、一言でトキの口を封じてみせる圧力。
「他言無用だ。」
「……。」
「彼女がお前を助けたいならそうすればいい。止める権利は誰にもない。」
「…シオンはまだリンのこと知らないんだね。」
トキは制止されたものの、再び口を開く。
「守りたいと思った人が犠牲になるのが、リンは一番傷付くんだよ。」

