いらないからと言って、簡単に手放していいものでもないと思う。


どうすればいいんだろう。




「…もういない。」


「え?」


「俺が将印を渡したい相手はお前以外にもういない。」


「…それ…。」




ああ。



こんな時までハルと同じようなことを、言わなくてもいいだろうに。






「…月の姫。」


「は?」


「お前のことだ。」


「え、は?」




もう話があっち行ったりこっち行ったり、着いて行けなくなってきた。


月の姫とは…さっきの夢の話か?





「最後に不老不死の妙薬を残して姫さんは月に帰る話。」


「あーうん。読んだことあるよ。受け取った人は飲まずに焼き捨てるんだよね。」


「俺は飲む。」


「あーそうなんだ。不老不死なんて私はやだな。」




アキトの夢の一片。


もうよく分からないけども。お酒が入ってて頭も上手く回らないので目の前の話にしか注視できない。





「飲んで転生したお前を待ってる。」


「…うん?」


「お前が作り上げようとしてるこの世界で、その場所をこの身体が朽ちるまで守ってる。」


「…あ、あれ?私そんな話、アキトに…したっけ?」




私の新たな道の話。


るうとグレイブさんしか知らない…はず。






「俺には何でか分かるって言ったろ。」


「…エスパーだ。」




知った上で守ると言ってくれた。


この世界ごと、アレンデールというたった一つの国を守ろうとしている私の途方もない道を。



理解した上で、それでも守ってくれると。






「本物の鳥籠に入ってたお前を、外に出せなかった鬼人の気持ちも正直理解出来る。」


「…だろうね。」


「理解は出来るが鬼人は間違ってる。どんな事情でも、お前を一人にするのは違え。」