…そして今。
再び狼さんが月明かりの下に現れた。
「…狼、さん。」
「どのタイミングで思い出してんだよ。」
…ああ。
本当に無事だった。
私にはその事実が本当かどうかも知る術はなかったから、今ようやく本当に無事を確認出来た。
「無事でよかった…けど。パパは特に何も言ってなかったから、ハル黙っててくれたんだ…。」
「俺は未だにハルに会う度にキレられますけどね。」
「あーごめん!色々…どうしよう!?私が身勝手なこと言っちゃったから振り回しちゃった!?しかも私が忘れるって…!ハルの馬鹿ー!!!」
「…落ち着きません?」
思い出してしまったからには落ち着けない。
だって、私が身勝手なお願いをこの人に頼んでしまったせいで。人生を捻じ曲げてしまったんじゃないだろうかと責任を感じてしまう。
かれこれ何年前だろう。
たぶん十年弱くらいだろうな。
…そんな昔のことを。
「覚えてて…くれたの?」
「…もう無礼者なんて言われたくなかったんで。」
申し訳なさすぎて顔も見れない。
「あー私最低だ…。」
「確かに。」
「…相変わらず無礼だね。あ、もう姫じゃないから無礼でいいのか。ごめん。あ、そうなったら無礼は私か。すみません。」
「忙しい人だ。」
ここから出して…なんて。
間違っても言っちゃいけなかったのに。
「…あの。」
「今落ち込んでるからちょっと待って。」
「もう待てないけど。」
何が待てないと言うんだと。
私は渋々顔を上げると、目の前に狼の瞳。
…この距離を忘れていた。

