(二)この世界ごと愛したい




変わらない私の様子を見て衛兵も安堵し部屋を出て行く。


そして再びその檻を下ろす。




…ガシャン。



そんな無機質で無情な音が部屋に響く度に悲しくなる。





『…泣いたり笑ったり変な奴。』


『…前門の虎、後門の狼。』


『は?』


『…どっちがマシかなー。』




私の問い掛けに狼は首を傾げる。





『狼より虎の方が強そうだから狼じゃない?』


『…もうすぐ虎さんが来ちゃいそうだから、狼さんそろそろお外に行った方がいいよ。』


『虎?』


『その前に助けてあげたお礼は?』


『は?頼んでないけど?』


『狼さんは無礼者だー。お外ではそれが普通なのかな?』




衛兵から隠してあげたお礼を強要する私。


お礼も言えない狼さん。



でも無礼者呼ばわりは流石に嫌だったのか、かなり小さな声で小さく言った。





『…どうも。』


『どういたしましてー。』


『…じゃあ俺もう行くから。』




そう言って再び侵入してきた窓に手を掛ける狼さん。



私はこの時、何も言えなかった。


さよならを伝えるのも引き留めるのも、何故だか違う気がして押し黙る。






『…何でまた泣くの。』




振り返った狼さん。


月明かりが照らすその姿は何とも綺麗で。







『いつか虎より強い狼さんになったら、私をここから出してくれる…?』


『何で俺が。』


『あ、でもやっぱりいいや。』


『は?』


『虎さんに出してもらわなきゃダメだよね。』


『何言ってるかさっぱりだ。』


『…いつか虎さんが出してくれるように私も頑張るから。狼さんも頑張って!』





再び部屋の檻が上がる音が聞こえる。






『リン!!!』




城内の迷い狼騒動の中、ハルが少し遅れて私の部屋に駆け付けた。




『…虎さんが来ちゃったー。』


『よりによってこの部屋に迷い込むとは命知らずな客だな。』


『ハル?今来たばっかりの人だよ?たぶん迷子だからみんなのところに帰してあげて?』


『お前を見た時点でもう救えねえよ。』




狼さんは窓の側にいたので。


今来たばかりだとハルに嘘をついた。



この頃異常なほど私の姿をひた隠していたこの国では、私を見たというそれだけで裁かれることもあるとかないとか。





『俺はもう行く。』


『ああ!?待てコラ!?』