変わらない私の様子を見て衛兵も安堵し部屋を出て行く。
そして再びその檻を下ろす。
…ガシャン。
そんな無機質で無情な音が部屋に響く度に悲しくなる。
『…泣いたり笑ったり変な奴。』
『…前門の虎、後門の狼。』
『は?』
『…どっちがマシかなー。』
私の問い掛けに狼は首を傾げる。
『狼より虎の方が強そうだから狼じゃない?』
『…もうすぐ虎さんが来ちゃいそうだから、狼さんそろそろお外に行った方がいいよ。』
『虎?』
『その前に助けてあげたお礼は?』
『は?頼んでないけど?』
『狼さんは無礼者だー。お外ではそれが普通なのかな?』
衛兵から隠してあげたお礼を強要する私。
お礼も言えない狼さん。
でも無礼者呼ばわりは流石に嫌だったのか、かなり小さな声で小さく言った。
『…どうも。』
『どういたしましてー。』
『…じゃあ俺もう行くから。』
そう言って再び侵入してきた窓に手を掛ける狼さん。
私はこの時、何も言えなかった。
さよならを伝えるのも引き留めるのも、何故だか違う気がして押し黙る。
『…何でまた泣くの。』
振り返った狼さん。
月明かりが照らすその姿は何とも綺麗で。
『いつか虎より強い狼さんになったら、私をここから出してくれる…?』
『何で俺が。』
『あ、でもやっぱりいいや。』
『は?』
『虎さんに出してもらわなきゃダメだよね。』
『何言ってるかさっぱりだ。』
『…いつか虎さんが出してくれるように私も頑張るから。狼さんも頑張って!』
再び部屋の檻が上がる音が聞こえる。
『リン!!!』
城内の迷い狼騒動の中、ハルが少し遅れて私の部屋に駆け付けた。
『…虎さんが来ちゃったー。』
『よりによってこの部屋に迷い込むとは命知らずな客だな。』
『ハル?今来たばっかりの人だよ?たぶん迷子だからみんなのところに帰してあげて?』
『お前を見た時点でもう救えねえよ。』
狼さんは窓の側にいたので。
今来たばかりだとハルに嘘をついた。
この頃異常なほど私の姿をひた隠していたこの国では、私を見たというそれだけで裁かれることもあるとかないとか。
『俺はもう行く。』
『ああ!?待てコラ!?』

