時間はどんどん過ぎて行き、外はもう日も沈み月が昇る。
私の膝にはアキトが陣取ってるので身動きも取れず、部屋に灯りを付けることも出来ない。
そんな中、この部屋のドアがそっと開く。
「…リン?」
ひょこっと顔を出したのはお仕事を終えたトキ。
私はトキに人差し指を口元で立てて静かにするように伝えると、トキは音も立てずにこちらへ近寄る。
「…幸せそうに寝ちゃって。」
「そうだね。すごく疲れてそうだったから、ちゃんと寝てくれて良かったよー。」
囁くほどの小さな声で。
私とトキはアキトを起こさないように話す。
「この状態で寝れるアキトって大物だね。」
「アキトじゃなくて私がすごいんだよ。」
「…そうかもね。」
そう言って二人で笑い合っていると、下から私に手が伸びてくる。
アキトさんのお目覚めです。
アキトの手は下ろしたままの私の顔に添えられて、薄っすら開いた目が私を捉える。
「おはよ?良い夢だったでしょ?」
「……。」
「アキト?」
まだまだ寝惚けているようで。
声を掛けても、私の顔に添えた手も私を見つめる視線も離れてはくれない。
…トキいるんだけど。
「まただ。」
「またって何が?」
「月。」
「はい?月?」
短絡的な言葉しか出てこないアキト。
「お前は月に帰んのか?」
「…は?」
月に帰る…とは?
かぐや姫でもあるまいし?
「アキトー。夢と現実が分からないなら俺が分からせてあげようか?」
「…あ?トキ…ん?」
トキの声はちゃんと届くようで、ようやくしっかり目を開いたアキト。
そして真上にいる私を見て一言。
「…本物か?」
一体どんな夢を見ていたんでしょう。
「月には行けないから偽物かもね?」
「…偽物か。」
「目が覚めたならアキト起きてー。私そろそろ身体痛いー。」

