「カイ、せこいぞ。」
「は?」
「…俺がやれば良かった。」
「お互いに忘れとったけどな。こういうのは思い出した時にどんだけ真摯に対応するかが男としての腕の見せ所やな。」
おーちゃんが自分が手配すれば良かったと拗ねているらしい。
私がこんなに喜ぶとは思わなかったらしい。
「お嬢ー?」
「…んー。」
「まさか今日から読み漁る気か?」
「…んー。」
そりゃあそうでしょう。
こんなに沢山の本の山を目の前にして、読まない選択肢は私にはない。
そして、今日の酒場の営業時間になっても店内で読み進める私を見兼ねて。
カイがワカさんを呼んで、その場でヘアセット。
お客さんが来ても、私は我関せず。ずっと本に夢中になってしまうので。今日はお酒ではなくコーヒーをカイが淹れ続けてくれている。
「嬢ちゃーん、そんなのめり込んで何読んでるんだー?」
「んー。」
「こっちで飲もうぜー。」
「んー。」
途中こうして話しかけられてもまともな返事も出来ない。
そんなお客さん達をカイが宥める。
閉店しても、後片付けが終わっても、まだまだ読み足りない私は未だにその場を動けない。
「没頭するタイプやな。」
「…これはこれで、大丈夫なんかな。」
「オウスケ、どないする?残るか?」
「…邪魔って言われそう。」
もう二人は帰るだけ。
特にここにもう用はないが、今日は迷惑なことに私が店内に残っているのでどうしようかと悩む。

