私服姿で、マフラーを口元まで隠して。

唇が震えてそうだけど、よくわからない。


「ななせ先輩。大丈夫、ですか?」


感じていた気持ちを、ぽろっと口に出すと、ななせ先輩の上がってた眉は、下へと下がり我慢してたのか、涙が次から次へと溢れる。

隠してたマフラーから見えた唇は、緩まって言葉を震えるように繋いだ。

ただ、ぼうっとしてた私。


ふわふわした気持ちも、ピンク色の空気も…ななせ先輩の言葉の直後に、冷たい空気と一緒に、空へ消えた──…


「ち、千早いなくなるの」

「えっ」


ななせ先輩。なにを言ってるの…?

小鳥遊くんがいなくなる?


「うちの両親離婚、して…っ。そ、れで千早は5時の電車で…」


何かが崩れる音。持ってた袋を持つ指の感覚を失う。


小鳥遊くんがくれたキャンディの味も。


目の前が揺れて見えて、ななせ先輩は、ただ泣いてた。