体育館の中へ辿り着いた途端、乙葉ちゃんは「待ってました!」と言わんばかりに、私が口を挟む隙もなく言葉をあやかじめ、ノートに書いてたようにつらつらと言い出した。


「なるほどー。ふむふむ。ちーちゃんも恋しちゃったのか。その様子だと相手は──…」

「なに話してるの?」


乙葉ちゃんが私の好きな人。

つまり小鳥遊くん、かもしれない名前を出しそうになったタイミングで、聞き覚えのある声が背中を叩いた。

「わたしも気になる」と続ける。

沙耶佳ちゃんの声が、ざわついた体育館でクリアに響いた。

心臓が、思ってもみないほど大きく跳ねて、つい心ちゃんと視線が合う。

塞がれた言葉の続きは、乙葉ちゃんの中に閉じ込まれて、さっきまで会話の中心だった沙耶佳ちゃんが目の前にいる。

止まった会話は、誰が見ても不自然だ。


どうしよう…。気まずい。


詰まった言葉。背筋に浮かぶ汗。


「え、と…ちーちゃんの恋の話し、かな」

「うん」


首を傾げて、乙葉ちゃんはぶつぶつ呟く。私に視線を流して、助けを出す乙葉ちゃんにつられて、つい言葉を落としてしまった。


私の返事は小さくて聞こえなかったかもしれないけど、ちゃんと沙耶佳ちゃんの耳に届いていたらしい。


「ちぃ、好きな人できたの!?それって小鳥遊くん?」

「……うん。私、小鳥遊くんが好き」

「そうなんだ!頑張ってね」


沙耶佳ちゃんは、無理したように笑ってて、すぐに向こうへ行ってしまった。