たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 二曲目に蓮が選んだのは、近々あるコンクールの課題曲。このために書き下ろされたという、星をテーマにした曲だ。

 真っ暗な夜空に浮かぶ星のような、硬質な輝きを持つ音を。だけど尖った音ではなく、きらきらと遠くまで届くような柔らかい響きで。
 何度となく師に言われた言葉を、蓮は未だに掴みかねている。頭の中で響く理想の音を、どうしても指先で鳴らすことができないのだ。

 だけど、今なら。詩音の前でなら、理想のきらきらとした音を出せるような気がした。

「……流れ星、みたい」

 ぽつりと詩音がつぶやく。タイトルを言っていなくても星のイメージは伝わったらしいことに、少しだけ嬉しくなる。

「すごく綺麗な曲。蓮くんはすごいねぇ」

「きらきらしてた、かな」

「うん。でも、さっきの『ため息』の方がきらきらした音だったかなぁ」

 詩音の言葉に、蓮は苦笑した。やはりまだ理想の音には届かないようだ。何か少しだけ掴めたような気はするけれど。