たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 途中から涙で視界が歪んで文字を追えなくなりながら、蓮はゆっくりと噛みしめるように手紙を読んだ。
 震える吐息と共に読み終えた便箋をそっと畳むと、黙って見守っていた詩音が困ったような笑みを浮かべていた。

「また、泣いてる」

「うん、ごめん。今日は泣いてばかりだな、俺」

「悲しいことが、書いてあった?」

 首をかしげる詩音に、蓮はかぶりを振った。

「すごく……、すごく嬉しいことが書いてあったよ」

 目の前の詩音の手を握って、蓮は笑う。
 たとえ彼女が蓮のことを忘れてしまったとしても、詩音のことを忘れるなんて、できるはずがない。今もこんなに好きなのに。


「ごめんね、詩音ちゃん。きみのお願いは、きけないや」

「え?」

 目を瞬かせる詩音の手を引いて、蓮はその華奢な身体をそっと抱きしめた。

「わ、蓮くん?」

 慌てたような声が聞こえるのが楽しくて、くすくすと笑いながらも蓮は詩音を囲う腕を緩めない。

「大好きなんだ。きみのことを忘れるなんて、できるはずない」

「え、何? 蓮くんってば、離して?」

「詩音ちゃんが、大好きだって言ってるんだ。これから、毎日でも何度でも伝えるから」

「え……、あ、え? 何、どういう……」

 真っ赤になって焦る顔が可愛くて、蓮は笑いながら抱きしめた腕に力を込めた。