たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

「……だれ?」

 ゆっくりと身体を起こした詩音は、蓮を見つめて小さく首をかしげた。ほとんど寝癖のつかないまっすぐな髪が、さらりと揺れる。
 蓮は、詩音の手を握りしめると笑顔を浮かべた。彼女が警戒しないように、優しい表情になっていますようにと願いながら。

「佐倉 蓮、といいます。詩音ちゃんのことが、大好きなんだ」

「蓮くん」

 噛みしめるようにつぶやいた詩音は、戸惑ったように蓮の方に手を伸ばした。

「どうして泣いてるの?」

 少し冷たい、ほっそりとした指先が蓮の頬にそっと触れる。涙を拭ってくれる指の優しさに、新たな涙がこぼれ落ちるのを感じながら、蓮は泣き笑いの表情を浮かべた。

「うん、ごめん。大好きな気持ちがあふれちゃった」

「ふふ、変な人」

 くすりと笑った詩音が、ベッドサイドに置かれたティッシュを差し出してくれる。
 あとからあとから流れてくる涙を拭き取りながら、蓮は必死に笑顔を浮かべた。

「そんなに泣かないで」

 困ったように蓮を見上げた詩音は、まるで小さな子供にするように頭を撫でてくれる。その手の優しさに、また涙が止まらなくなると思っていると、ふとその手が止まった。