休憩時間を利用して、蓮たちは会場を出た。
穏やかな表情で目を閉じる詩音は、相馬に抱き上げられても、車に乗せられても、一向に目を覚さない。
蓮は、ただそばにいて手を握ることしかできない。
病院に戻り、ベッドに横たえられても詩音が目覚めることはなく、診察にやってきた金居も、ただ深い眠りにあるとしか言えないとため息をついた。
昨晩の徹夜のせいで、ただ眠っているだけだと思いたい。
だけど、全ての人物の記憶を失ったあとは眠り続ける症例もあると聞かされているから、詩音が目覚めないことが恐ろしくてたまらない。
「詩音ちゃん、起きて。俺のことを覚えていなくても構わないから、起きて」
動かない手を握って、蓮は囁く。
目覚めて欲しいと願いながらも、もしかしたらこのまま眠り続けていた方が、詩音は幸せなのかもしれないと、蓮はぼんやりと考えていた。
誰も知っている人のいない孤独な世界で生きるよりも、優しい夢の中にいた方が、詩音のためかもしれない。
目を覚まして欲しいなんて、蓮の勝手な我儘なのかもしれない。
相反する感情を抱えながら詩音の手を握っていると、不意にその指先が微かに震えた。
「……っ、詩音ちゃん?」
思わず立ち上がった蓮の目の前で、詩音の目蓋がゆっくりと開いていく。
ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返したあと、黒い瞳がぼんやりと蓮を見つめる。
「詩音、ちゃん」
掠れた声で名前を呼ぶと、詩音がふわりと笑みを浮かべた。
もしかして、と目の前が明るくなったように感じた次の瞬間、詩音の唇は残酷な真実を紡ぐ。
穏やかな表情で目を閉じる詩音は、相馬に抱き上げられても、車に乗せられても、一向に目を覚さない。
蓮は、ただそばにいて手を握ることしかできない。
病院に戻り、ベッドに横たえられても詩音が目覚めることはなく、診察にやってきた金居も、ただ深い眠りにあるとしか言えないとため息をついた。
昨晩の徹夜のせいで、ただ眠っているだけだと思いたい。
だけど、全ての人物の記憶を失ったあとは眠り続ける症例もあると聞かされているから、詩音が目覚めないことが恐ろしくてたまらない。
「詩音ちゃん、起きて。俺のことを覚えていなくても構わないから、起きて」
動かない手を握って、蓮は囁く。
目覚めて欲しいと願いながらも、もしかしたらこのまま眠り続けていた方が、詩音は幸せなのかもしれないと、蓮はぼんやりと考えていた。
誰も知っている人のいない孤独な世界で生きるよりも、優しい夢の中にいた方が、詩音のためかもしれない。
目を覚まして欲しいなんて、蓮の勝手な我儘なのかもしれない。
相反する感情を抱えながら詩音の手を握っていると、不意にその指先が微かに震えた。
「……っ、詩音ちゃん?」
思わず立ち上がった蓮の目の前で、詩音の目蓋がゆっくりと開いていく。
ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返したあと、黒い瞳がぼんやりと蓮を見つめる。
「詩音、ちゃん」
掠れた声で名前を呼ぶと、詩音がふわりと笑みを浮かべた。
もしかして、と目の前が明るくなったように感じた次の瞬間、詩音の唇は残酷な真実を紡ぐ。

