「頑張ってね、蓮くん」
詩音の言葉に見送られて、蓮は舞台袖へと向かう。出番は4番目。蓮の前に弾いた誰もが間違いなく上手で、本当にすごいなぁと感嘆のため息が落ちる。
心を落ち着かせようとゆっくりと深呼吸を繰り返していると、舞台袖に付き添ってくれた本間が、黙って肩を叩いてくれた。
名前を呼ばれて、明るい舞台へとゆっくり足を踏み出す。しんと静まり返った中、客席の中央に詩音が緊張した面持ちで座っているのが見えて、蓮の顔に少しだけ笑みが浮かんだ。
そして、端の方の席には母親の姿。まるで審査員のような冷静な眼差しで、じっと蓮を見つめている。
これから蓮がしようとしていることは、きっと彼女を失望させる。
だけど今日だけは、蓮は詩音のために弾くと決めたから。
ホールの真ん中に置かれたグランドピアノは、ライトに照らされてきらきらと輝きながら蓮を待っている。
椅子に座り、ペダルに足を置いて高さを確かめる。自分にとってのベストなポジションに椅子の位置を調整するのは、心を落ち着かせるための蓮のいつものルーティン。
ふうっと息を吐いて一度目を閉じ、集中力を高めてからそっと指を鍵盤の上に置く。
――詩音ちゃん、聴いてて。
詩音の言葉に見送られて、蓮は舞台袖へと向かう。出番は4番目。蓮の前に弾いた誰もが間違いなく上手で、本当にすごいなぁと感嘆のため息が落ちる。
心を落ち着かせようとゆっくりと深呼吸を繰り返していると、舞台袖に付き添ってくれた本間が、黙って肩を叩いてくれた。
名前を呼ばれて、明るい舞台へとゆっくり足を踏み出す。しんと静まり返った中、客席の中央に詩音が緊張した面持ちで座っているのが見えて、蓮の顔に少しだけ笑みが浮かんだ。
そして、端の方の席には母親の姿。まるで審査員のような冷静な眼差しで、じっと蓮を見つめている。
これから蓮がしようとしていることは、きっと彼女を失望させる。
だけど今日だけは、蓮は詩音のために弾くと決めたから。
ホールの真ん中に置かれたグランドピアノは、ライトに照らされてきらきらと輝きながら蓮を待っている。
椅子に座り、ペダルに足を置いて高さを確かめる。自分にとってのベストなポジションに椅子の位置を調整するのは、心を落ち着かせるための蓮のいつものルーティン。
ふうっと息を吐いて一度目を閉じ、集中力を高めてからそっと指を鍵盤の上に置く。
――詩音ちゃん、聴いてて。

