たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 コンクールの会場は、隣の市にある大きなホール。綺麗なドレスで溢れる出場者の人波を縫いながら、蓮はロビーで詩音を探す。

「蓮くん!」

 その声に振り向くと、手を振る詩音と付き添いの雛子と相馬の姿があった。

「来てくれてありがとう。ヒナちゃんも、相馬先生も、ありがとうございます」

 駆け寄った蓮の前に、にこにこと笑顔の詩音が飛び出してきた。

「ひなちゃんと、頑張って起きてたんだ。でも、興奮してるのか全然眠くないの。すごく楽しみ!」

 先日のデートの時にも着ていた青いギンガムチェックのワンピースを身に纏った詩音は、一睡もしていないはずなのに体調は良さそうだ。

「スーツ姿の蓮くんもかっこいいねぇ。すごく似合ってる」

 プログラムを見たり、蓮の服装を褒めてくれたりと、詩音はご機嫌な様子だ。そんな彼女を、雛子と相馬が黙って見守っている。