たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 翌朝、蓮は朝早くに目覚めた。
 枕元に置いた携帯電話を確認すると、雛子からのメッセージが入っている。
 寝ずに夜を明かしたこと、そしてやはり眠らなければ詩音の記憶は保たれるようで、蓮のことも昨日出会った雛子のことも覚えているようだと綴られている。
 詩音が、まだ蓮のことを覚えていてくれることに少し安心する気持ちはあるけれど、いつまでも睡眠をとらずにいるわけにはいかない。
 きっと今日が、詩音が蓮を覚えている最後の日になるだろう。
 彼女の記憶の中に、蓮の弾くピアノだけでも残ればいいなと思いながら、蓮は着替え始めた。