たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

「……ごめんね、ひなちゃん。もう私、ひなちゃんとどうやって過ごしてきたのか覚えてないんだ。きっとたくさん会いにきてくれてたんだよね。仲良しだったんだよね。私ね、もう蓮くんのことしか分からない。蓮くん以外、誰のことも思い出せない」

 何度もごめんと言いながら、詩音は布団に顔を埋める。
 泣きじゃくる詩音に近づいた雛子が、そっと腕を伸ばして抱きしめた。

「あたしが覚えてる。詩音とは、幼稚園で同じクラスになった時からずっと一緒。小学校も、中学も、高校だって詩音はあたしのレベルに合わせて……っ」

 ぽろぽろと涙をこぼしながら、雛子は詩音の耳元で囁く。

「ずっと一緒だったの。詩音は、あたしの一番の親友。今でもそれは、変わらないから」

「私、ひなちゃんのこと覚えてないのに……?」

 涙に濡れた瞳で見上げる詩音に、雛子は笑みを浮かべてみせる。

「当たり前でしょ。これから毎日、何度だってあたしたちの過ごした日々を教えてあげるから」 

 悪戯っぽい笑みを浮かべた雛子は、詩音の耳元に唇を寄せた。

「ちなみに、悠太って書いてあるのは詩音の従兄のこと。ここで働いてる内科のお医者さんで、あたしの彼氏」

「え、え、どういうこと? ひなちゃんの彼氏が、私の従兄なの? お医者さん?」

 驚きに目を見開く詩音を見て、雛子は涙を拭って楽しそうに笑う。

「ふふ、詩音のおかげで付き合うことができたから、感謝してるんだよ」

 馴れ初め聞きたい? と笑う雛子に、詩音の表情も明るくなる。
 さすがだなと、蓮は楽しそうに笑い合う二人を見て、小さく息を吐いた。雛子の強さも、二人の絆も、蓮にはまぶしくてたまらない。