たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 誰もが言葉を失う中、詩音だけが楽しそうに笑っている。

「ヒナと彼氏さん、どこで出会ったの? 色々聞きたいなぁ」 

 明るい声で馴れ初めを聞きたがる詩音に、雛子は戸惑って相馬を見上げた。相馬は穏やかな笑みを浮かべながら雛子の前に出た。

「僕はここの内科で働いていてね。何度か売店とかで会って、それで」

「え、そうなんだ。じゃあ、お医者さん?」

 詩音が華やいだ声をあげるたびに、蓮は胸が苦しくなる。だけど、必死に表情を崩さないように拳を握りしめた。
 彼氏が迎えに来たのに邪魔するのは悪いからと、詩音は雛子と相馬を送り出した。雛子も表情を保つのが限界だったみたいだから、それがいいだろうと蓮も見送る。蓮は、詩音が遅めの夕食をとるのを見守って、それから帰ることにした。

 詩音は、やはり一人きりになることに不安そうな表情を浮かべていたけれど、看護師に頻繁に様子を見に来るからと言われて小さくうなずいた。今日の行方不明事件もあるし、病院側も詩音の動向に目を配ってくれるだろう。

「また明日も、来てくれる?」

 寂しそうな表情でそう言われて、蓮はうなずく。

「朝一番に来るよ」

「うん、待ってる」

 詩音に小指を差し出されて、蓮は安心させるように笑顔で指を絡めた。