たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 詩音が相馬を見つめる視線は、どう見ても見知らぬ相手に向けるもの。言葉を失う蓮たちの中で、いち早く反応したのは相馬本人だった。

「こんばんは、はじめまして。雛子ちゃんとお付き合いしてる、相馬といいます。ちょうど今、雛子ちゃんを迎えに来たところだったんだ」

「え、嘘! ヒナの彼氏!? いつから? 私、全然知らなかった!」

 驚いたように目を見開いた詩音は、きゃあっと小さく叫んで雛子の手を握った。

「彼氏連れてきてくれるなんて、嬉しい! 優しそうで素敵な人だね、ヒナ」

「あ、うん……」

 必死にぎこちない笑顔を浮かべる雛子を見て、詩音はそれを照れだと判断したらしい。くすくすと笑いながら相馬を見上げた。

「ヒナの親友の、尾形詩音といいます。ヒナ、本当にいい子なの。どうぞよろしくお願いします」

 笑顔で差し出された手を、相馬は微かに苦い笑みを浮かべながら握り返す。
 ついさっきまで、詩音は相馬のことを覚えていたはずなのに。病院に戻ってきた時には、彼の名前を口にしていたはずなのに。
 従兄である相馬に、全くの初対面といった様子で接する詩音を見て、蓮は鼓動が嫌な速さで打ち始めるのを感じていた。