たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 どこかぎこちない、上の空な会話をしながら売店でアイスを買って、蓮たちは中庭へと向かった。詩音に気づかれまいと必死に明るく振る舞う雛子を見ていると、詩音と二人きりにすることに不安があって、蓮も帰る時間を遅らせることにしたのだ。
 外は暑いけれど木陰に入ればいくらかはましで、三人はベンチに座って溶け始めたアイスを慌てて口に運ぶ。

「すごい、あっという間に溶けてきた」

 どんどん液体化していくアイスに悲鳴をあげながら、詩音が笑う。いつもと変わらないその楽しそうな表情を見て、雛子が辛そうに一瞬眉を顰めた。このまま泣き出すのではと焦った時、こちらに向かってくる人影を見て蓮は思わず立ち上がった。

「相馬先生」

「あれ、悠太」

 同時に気づいた詩音も、立ち上がって手を振る。

「なんでまた、この暑いのに外でアイスなんて食べてるの」

 近づいてきた相馬は、蓮たちの手にある溶けかけのアイスを見て苦笑を浮かべた。今日は仕事ではないのか、白衣ではなくラフな服装をしている。

「暑いからこそ、冷たいアイスが美味しいの!」

 そう言って胸を張った詩音が、くすくすと笑いながら相馬の腕を引いた。

「あのね、悠太。私、蓮くんを送ってくるからさ、ヒナと一緒にお部屋戻っててくれる?」

「え、詩音?」

 驚いたように目を見開く雛子の手を引いて立ち上がらせると、詩音はそのまま相馬の方へと押し出した。

「行こう、蓮くん」

 悪戯っぽい表情で笑いながら、詩音が蓮の手をとる。一瞬躊躇ったものの、不安定な雛子を相馬がきっと支えてくれるだろうと考えて、蓮もうなずいた。

「ヒナをよろしくね!」

 明るくそう言って歩き出した詩音に手を引かれて、蓮は慌てて相馬と雛子に頭を下げて歩き出した。