たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 いつものように、蓮と雛子と詩音は過ごしていた。
 大量の夏休みの課題をお互い持ち寄って解いていると、まるで詩音の病気なんてはじめからなかったかのように錯覚してしまいそうになる。
 だけどここは病院だし、詩音の手首には入院患者の証であるバンドが巻かれている。

「あーもう、英語キライ。本当意味分かんない」

 分厚い問題集と格闘していた雛子が、うんざりした様子でペンを放り投げる。

「蓮は、何でそんなスラスラ解けるの? ちょっとムカつくんだけど」

「何でって言われても……。でもヒナちゃんは数学得意だろ。俺は全然だし」
 
「皆、得意科目バラバラだね。私は数学も英語も苦手だもん」

 古文の問題を解いていた詩音も、疲れたようにペンを置いた。高校を休学中なので、やる意味あるかなぁとつぶやきつつも、二人に付き合って詩音も課題を少しずつこなしているのだ。

「もーだめ。休憩しよ。詩音、売店にアイス買いに行こうよ」

 完全に集中力が途切れたらしい雛子が、財布を持って立ち上がる。

「いいよ。蓮くんは、どうする? このあとピアノのレッスンがあるんでしょ?」

「んー、そうだな、もう少ししたらバスの時間だし、一緒に行ってそのまま帰ろうかな」

 時計を見上げつつ蓮が答えると、詩音はうなずいた。
 その時ノックの音が響き、詩音が返答する前にドアが開いた。以前詩音が言っていたように、そんな訪問の仕方をするのは主治医の金居しかいない。

「こんにちは」

 予想通り、穏やかな笑みを浮かべた金居が顔をのぞかせた。売店に行くのは、彼の診察のあとかなと思いつつ詩音の顔を見た蓮は、小さく息をのんだ。