たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 詩音の母親へのプレゼントを買ったあと、二人は病院へと戻ることにした。本当はもっといろんな場所に行きたいけれど、あまり外を出歩かない詩音の体力を考えると、そろそろ休まないと疲れてしまうだろうから。
 
「喜んでくれるといいな」

 抱えた紙袋を見ながら、詩音が小さくつぶやく。
 あまり病院には顔を出さないらしいから、従兄の相馬が渡してくれるのだという。
 代理の人をよこすくらい忙しいみたい、と言う少し寂しそうな横顔を見て、きっとそれが母親の千尋であろうことを想像するものの、蓮には何も言えない。

「きっと、喜んでくれるよ」

 それだけ言うと、詩音もこくりとうなずいた。

 
 手を繋いで歩いていると前方から見覚えのある人影が見えて、蓮は思わず足を止める。

「悠太!」

 同時に気づいたらしい詩音が駆け出すから、手を繋いだままの蓮も一緒に走ることになる。

「外出してるって聞いたから、様子を見にきたんだ。蓮くんと一緒だったんだね」

 にっこりと笑った相馬の視線は、繋がれた手に注がれている。ここで突然手を離すのも変だし、そもそも詩音がしっかりと握りしめているから振り解くわけにもいかず、蓮は気まずい思いで小さく頭を下げた。

「そうなの! すごい楽しかったよー。ね、蓮くん」

「う、うん」

 笑顔のはずの相馬の視線が冷たいような気がして、背筋を汗が流れ落ちる。

「良かったね、詩音」

「またどこか行きたいなぁ。今度は、もっと遠くまで行きたい!」

「そうだね、金居先生の許可が出たらね。蓮くんも、ありがとう」

 穏やかに笑いながら、相馬は詩音の頭を撫でた。ちらりと蓮に向けた視線も少し和らいでいて、詩音が笑顔になるのなら蓮の存在も許すと言われているような気がする。