たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 どうせなら店の中じゃなくて、もっと景色のいい場所で撮れば良かったねと笑いながら、詩音はプリントアウトした写真を大切そうに抱きしめた。
 強張った顔の蓮が面白いから、と失敗した写真までプリントアウトしてきたのは少し恥ずかしいけれど、詩音の手帳に蓮の写真が貼られるのはくすぐったくて嬉しい。
 
「私、今日のことはきっと忘れないよ」

 噛みしめるようにつぶやいた詩音の言葉に、蓮は黙ってうなずく。
 いつか詩音が蓮のことを忘れる日が来ることは分かっているけれど、この思い出も消えてしまうことを知っているけれど、それでも忘れないと思ってくれる詩音の気持ちが嬉しい。

「手帳に書いておくの。日記みたいに。そうしたら、きっと……きっと忘れない」

 少し震えた語尾に気づいた蓮は、思わず詩音の手を握った。驚いたように顔を上げた彼女に笑いかけ、通りの向こうにある花屋を指差す。

「お花、買いに行こう」

「うん、そうだね。一緒に選んでね、蓮くん」

 もちろんとうなずいて、二人は花屋に向かって歩き出した。
 繋いだ手は、ずっとそのままだった。