たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音だけは 忘れない

 その後も、詩音はいつも明るい笑顔を浮かべていた。きっと次は誰の記憶を失うのかと、怖くてたまらないはずなのに。

 山科も、今では淡々と業務をこなしている。時々詩音が彼女に話しかけるたびに蓮は胸が騒ぐけれど、山科は全く表情を変えずに毎回初対面の看護師として詩音と接している。自分はまだまだだなぁと、蓮はそのたびにこっそりため息をついている。

 毎回、詩音に会う前は覚えていてくれるだろうかと緊張するけれど、今のところいつも笑顔で迎えられている。山科の記憶を失って以来は、蓮を含め相馬や雛子といった身近な人物を忘れてはいないようだけど、彼女の頭の中は分からない。

もしかしたら今日も、詩音は誰かの記憶を失っているのかもしれない。